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コロナによる食糧不足 なぜ起こるのか・影響範囲は?

コロナウイルスは、単純な感染症の危機だけでなく、いろいろな副次的問題も生み出していますが、ここに来て更に一つ大きな危機が迫っています。
それは世界的な「食糧不足」です。伝染病と食料不足、一見してあまり関係がなさそうな2つですが、すでにFAO(国連食糧農業機関)、WHO(世界保健機関)、WTO(世界貿易機関)という国連の3機関が警笛を鳴らしています。
どうしてそのような事態が起こり得るのでしょうか

なお、パニックを防ぐため重要な情報を先に書いておきます。

・現段階では食料はまだ十分に足りています。
・日本への影響は限定的との見方が強いです。

・食料を買い占める必要はありません。

なぜ起こるのか

例え緊急事態宣言や、外出禁止令が出たとしても、植物は待ってくれません。
栽培・収穫のスケジュールは厳密に決まっており、品種によっては1日の遅れが品質に直結します。
モモ・ブルーベリー・いちご等は、1日収穫に遅れが出ただけで、売り物としての品質がなくなってしまうのです。

それらの収穫は一人ではできません、多くの農園は従業員を雇って収穫に当たりますが、外出禁止令が出されている中でリスクをおって働いてくれる従業員の確保は難しくなっています。

多くの国(特にアメリカ)で、食糧生産は「季節性労働者」に頼っている

また多くの国では、食料生産にあたり外国人労働者に頼っていました。
特にアメリカでは「H-2Aビザ」という農業労働者用のビザを外国人に発行してきました。これらのビザは主にメキシコ人が用いて、1年の内短期間アメリカで農業に従事し、作業が終わると国に戻る、というサイクルを繰り返していたのですが、今やアメリカは世界最大のコロナ感染者を出している国です。
平時には密入国をしてでも入りたい国であっても、現在ではメキシコ側がアメリカ人の流入を阻止するために国境を封鎖しています。
そのような状況で、農業労働のために入国してくる労働者はまれでしょう。

もちろんアメリカ内にも労働者はいます。むしろ歴史的な失業率を記録したアメリカでは、現在人手の確保は優しい部類です。
しかしながら、農業もスキルのいる仕事です。品種によって収穫方法は違いますし、資格を取得しなければできない作業も多々あります。
また、残念ながら肉体を酷使する農業は、「したくない作業」とされていることが多いです。地元のAmazon倉庫やUber Eatsのドライバーとして働くか、遠く離れた地で一時的に農業を行うか、では前者を選ぶ人のほうが多いでしょう。

不安からくる輸出制限

そのような「生産の問題」もありますし、更に深刻な「輸出入の問題」もあります。
世界最大の小麦輸出国のロシアは、国内供給を最優先にするため、小麦の輸出量に700万トン制限を設けました。去年の同時期輸出実績が720万トンなのを考えると、大した締付けではないように感じますが、保険の意味合いが強いのでしょう。また更なる規制が掛からないか、という危機感を誘発しています。

また、米最大輸出国のインド、3位のベトナムも同様の輸出制限を行っています。実際に食料が足りていないというよりは、万一世界中の物流が止まった際、一番必要なのは「食料」という危機感からくる輸出制限のようです。
こういった混乱時には、どの国も自国優先で食料を確保するため、もっぱら被害を受けるのは輸入に頼っている国です。

なお逆に米国・カナダ・オーストラリア・欧州各国は、食料の輸出規制に反対しています。世界全体で見た時輸出制限は無用な混乱を招き危険です。

日本への影響は?今の所限定的か

ここまで読んで不安になられたかもしれませんが、パニックになる必要はありません。
2008年の米騒動を思い出す方もいらっしゃるかと思いますが、あの時と違い、現在世界中には十分な量の穀物在庫があります。そして不作等と違い、物流や雇用者の問題は「解決可能な問題」です。

また、日本の食料自給率が問題になることもありますが、「カロリーベース」というあまり世界的には使用されていない指標での統計的な問題であったり、TPP等による食料輸出入のハードル低下等により低くされているのであって、日本の生産能力が著しく低下している訳ではありません。

どちらかというと今回国連機関が出した食糧危機についての予測は、コロナウイルスによる国際的混乱が招く二次的な問題という位置づけです。
確かに物流は混乱していますし、外食産業の休業により、高給食材等は致命的な打撃を被っていますが、人々が餓死するかどうかは別問題です。
課題としては、この景色の変わった食料需要をどう処理していくか、生産者や食品専門商社へのいち早い対処が求められているのかもしれません。

(なお西アフリカの一部の地域等は、コロナウイルス流行・気候変動・ISIS襲撃による避難民の急増等により、食糧危機が起きています。こちらについては国際的な対応が求められるかと思います)

グローバルからローカルへ

コロナ以前の社会は、グローバルであることが美徳とされていました。物流の進化から、以下に安い地域で生産されたものを国内に輸入し、売りさばくかの競争だった訳です。

しかし、コロナと付き合い続けることが求められた今後の社会では、「ローカルの力」が再認識されるかもしれません。
海外に生産拠点を持っていた多くの工業製品は、現在製造ラインが止まっています。食料についても、同じことが言えるでしょう。輸入食材に頼り続けることは不安が残るため、国内食材に注目が集まります。

いずれにせよ食品生産の転換は、コロナがもたらす社会変化の一つでしかありません。現時点で恐怖する必要はありませんが、経済や他業種にどのような影響を及ぼすのか、注視する必要はあるでしょう。

参照:What happens to our food supply if American farmers can’t farm?

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