最近「本」の価値が見直されてきています。実際数字にも出たようです。
2019年の紙+電子出版市場は初のプラス成長で1兆5432億円 ~ 出版科学研究所調べ
https://hon.jp/news/1.0/0/27793
公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所は1月24日、2019年の出版市場規模を発表した。紙+電子出版市場(推定販売金額)は1兆5432億円で、前年比0.2%増。出版科学研究所が電子出版市場推計を始めた2014年以降、紙+電子出版市場がプラスに転じるのは初めて。
0.2%増という微量の増加ですが、2014年の電子版を追加した計測を開始して以来、ずっと下がり続けていた出版市場規模が初めてプラスに転じたことは、喜ばしいニュースです。
今回のプラスに転じた要因としては、電子コミックの売上が好調な面が大きいと言えます。
調査報告書にも書かれている通り、漫画村の閉鎖は電子コミックの売上に大きく寄与しました。
「漫画村が閉鎖したところでコミック売上に変動なんかない!」と擁護していた人もいましたが、今回それは間違いだったことが数字で説明された訳です。
また、SNSで漫画の1話分を公開する手法が、2019年はじめから多く見られるようになりました。
上記のようにtwitterの画像として1話分を貼り付けるのです。
これは今とても流行っていますね。
多くの商業漫画は、1話読むと話に引き込まれるような序盤をしていますが、読んだ人は当然続きが気になり、そこに電子書籍のリンクが連なっている訳です。
kindleなら1クリックで速攻購入を行い、続きを読むことができます。
更に書籍を買わなかった人も、リツイートやいいねを押すことで宣伝に寄与できる仕組みです。
とてもSNSをうまく使った方法ではないでしょうか。
また、コミックの売上には、アニメも寄与しています。
昨年末、コミック界に一つのニュースが流れました。
コミックス年間売上のランキングで、10年以上1位をひた走っていた「ワンピース」を抜いて、「鬼滅の刃」が1位を取ったのです。
同じジャンプの漫画であり、それまでも人気のあった同作ですが、火をつけたのはアニメ放映でした。
集英社によればアニメ放映前は11巻で250万部の売上だったのですが、アニメ放映後には16巻1200部、18巻が出る頃には2500万部も売り上げたとのことです。
この驚異的な売上には、ストリーミング再生が一躍買っています。
「鬼滅の刃」はテレビ放映もしましたが、同じ時刻にabemaTVでも放映を行いました。
そうすると、最速放映時をしていない地域の人や、テレビのない人も同時にSNS等で盛り上がることができるのです。
「鬼滅の刃」は昨年の「Twitterトレンド大賞 アニメ部門」にも選ばれています。
そのぐらい大きなトレンドとなり、コミックスの売上にも繋がりました。
更に、電子書籍の売上で「ビジネス書」も目立った年だと言えます。
2019年1月1日に発売された「FACTFULNESS」は、なんと紙の本より先に電子書籍を発売。
逆(電子書籍を後発させる)はよく見ますが、電子書籍先行はあまり見られません。
発行元の「日経BP」でも初の試みだったようです。
しかし狙いは見事当たり。SNSで先に話題が広がり、書籍版も最高のスタートダッシュを決めました。
「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」と表紙に書かれたこの本は、統計データから”多くの人が思っていたのとは違う真実”を見つけ出し、記載しています。
読んだからには誰かに知らせたくなる情報が書かれているため、SNSでシェアされやすい内容です。
更に2019年のビジネス書ランキングを見ると、インフルエンサーの本が多く見られます。
彼らは本を出すこととの親和性が、最も高い人種です。
そもそもインフルエンサーと呼ばれる人たちは、文字を書いたり、喋ったりすることが大好きです。
フォロワーはインフルエンサーの書いた言葉に共感し、感銘を受け、フォローしています。
本に書く内容は、すでにほとんどSNSに乗っているため、あとは編集者なりライターなりが文章として起こしてしまえばいいのです。
(この流れは2019年より前からの動きですが、最初にこの方法をうまく使ったのはnewspicksと「箕輪厚介氏」だと思います)
インフルエンサーには少なくとも10万人~100万人以上のフォロワーがいます。
いわば「ベストセラー」と呼ばれる10万部は約束されたようなものです。
更に、熱心なフォロワーは広報としても動いてくれます。
お金を貰えるわけでもないのに、発売日にリツイートしSNSへ感想を書き込んでくれる、作家にとって最高のファンです。
今回の市場規模がプラスに転じた理由として、購買行動モデルが「AISAS」から「SIPS」に変わっていっていることが、一つ要因に挙げられるかと思います。
「AISAS」…注意→興味→検索→行動→共有 の英語頭文字を取ったもの。検索エンジンとの親和性が高い。
「SIPS」…共感→確認→参加→共有 の英語頭文字を取ったもの。SNSとの親和性が高い。
5年程前まで、消費者の行動モデルはもっぱら「AISAS」でした。
何かブームになる際、皆がスマートフォンから検索を掛けていたのです。
物を売るためには、検索エンジンの上位を取るのが良いとされ、企業はリスティング広告に多額の費用を掛けていました。
しかしSNSがアーリーマジョリティ(慎重な消費者)やレイトマジョリティ(懐疑的な消費者)の間に広まってくると、消費者の行動モデルはSNSを主体としたものに変化してきました。
今では多くの企業が、インフルエンサーに対して広告依頼を行い、自社商品を広めてもらっています。
更に、この「AISAS」から「SIPS」に移り変わった理由には、単に「SNSが流行ったから」以上の理由があります。
あまりに情報が多すぎて、皆検索するのが億劫になってきているのです。
スマートフォンでのgoogle検索は、正直目が疲れます。しかも検索した結果「”いかがでしたか?”ブログ」が出てきて、大した情報を入手できない場合がままあります。
すいません、長くなりましたが本の話に戻りましょう。
このような「検索疲れ」を感じている人には、本は魅力的なものです。
1000円程度払えば、ある一定のレベルを保った内容を、まさしく本1冊分読むことができるのです。
当たり前のことだとおもいますか?
ある人はこう言います。
「わざわざお金を払わなくても、同じ内容がWEBを探せばでてくる」
しかしその探すに至るまでの、時間と労力をどのぐらい掛けられますか?
取り入れるべき情報は大量にあるのに、1日の時間は限られているのです。
1000円払うことにより「出版社や作者が保証できる内容」を今すぐ読むことができるなら、忙しいビジネスマンにとっては魅力的な提案でしょう。
ただし、これからも本の市場規模が上昇するかどうかはわかりません。
5Gが普及し始める時、「コンテンツ黄金時代」が訪れると言われています。
うまく「コンテンツ黄金時代」の波に乗ることができれば、本の市場規模はこれからも上昇を続けるでしょう。
例えばホリエモンは漫画の情報摂取効率に目を留め、『これから「マンガ戦国時代」が始まる』と述べています。
一方で、5Gによりテキストベースの時代が終焉を迎え、これからは動画とコミュニティの時代に変化する、との声も上がっています。
ひょっとしたら、どちらも正しいのかもしれません。
何れにせよ、時代に即した売り方を出版業界や著者は考えていく必要があります。
そしてそれは、他の媒体でコンテンツを発信している人も同じです。
ブロガーもYoutuberも、そして企業の広報担当者も、これから大きく変革するコンテンツ時代を注視していなければ、たやすく置き去りにされてしまうでしょう。
ひょっとしたら、今後数年で「本」という媒体の意味するところが、まったく変わってくることすらありえます。
しかしながら結局の所、大きな原則はかわりません。「消費者にどんな価値を提供できるか」その原則は不変です。
下手に気にしながら戦々恐々と縮こまるよりも、とにかく必死にコンテンツを発信していくなら、結果はついてくるでしょう。
そういう所を、出版社にも期待したいと思います。