先日Appleの第1四半期決算が発表されました。
結果は過去最高の利益と売上高。
アナリストの予測を軽々飛び越えて、記録的な数字を叩き出しました。
ジョブズ亡き後、現CEOティム・クックが経営を引き継いだわけですが、当時の投資家がAppleを見る目は冷ややかでした。
誰もが「Appleはジョブズで持っていた」「ティム・クックには魅力がない」「ジョブズ後のApple製品には魅力がない」と、凋落のストーリーを期待したのです。
確かにティム・クックにジョブズほどのカリスマがあるか、と言われれば、今でも否定されるでしょう。
しかし「ティム・クックはジョブズより経営が上手いか?」という質問には、ほとんどの投資家がYesと答えるでしょう。
ジョブズがなくなった2011年、株価は50ドル程度でした。それが今や324ドルにもなっているのです。
当時「Appleの伸びしろは少ない」との見方が大半でしたが、それを大きくはねのけてAppleは躍進しました。
ウォーレン・バフェット氏について知らない方のために雑に説明すると、世界で一番有名な投資家です。「有名な投資家」で検索すると必ず出てきます。
長期的な投資で上り詰め、長者番付で10位以内に毎年入っているほどの有名人です。
「オマハの賢人」とも呼ばれ、「1億円払ってでも話をしたい」、という人が大勢います。
そのウォーレン・バフェット氏の会社「バークシャー・ハサウェイ」のポートフォリオの中で、現在5%以上を占めているのがApple株です。
2016年から積極的にApple株を買い始め、一時は25%近くがApple株で占められていました。
バフェット氏がApple株を買い始めたタイミング 株価は緩やかに下っていた。
当時のAppleは、知名度こそあるものの、多くの投資家にとってあまり魅力的な銘柄ではありませんでした。
四半期ごとの決算でも、大抵はアナリストの期待に届かないことが多かったです。
ウォールストリートは「iphoneの販売数を拡大するか、別のヒット商品を出す」ことを勧めました。
当時の書き込みを見てみると、その実態がよくわかります。
プロの投資家同士で強弱感が対立するアップルですが、よほど面白いものを出さない限り、多くの投資家は乗り換えを進めるような気がします。かつての期待を維持するのはなかなか大変なような気がします。
(参照:http://agora-web.jp/archives/2019210.html)
英紙「フィナンシャル・タイムズ」は、ウォール街がアップルを「iPhoneの会社」だとみなしている、とする。実際、iPhoneが売れればアップルの株価は上がり、なかなか売れないと株価は下がる。
ウォール街は、iPhoneが以前より売れなくなった現状をみて、「スマートフォン市場は飽和した」と考えるようになったのだ。最大の市場のひとつである中国での失速が大きな要因だ、と指摘するのは米紙「ニューヨーク・タイムズ」である。
「小米(シャオミ)」をはじめとする中国メーカーのスマートフォンは、iPhoneより数百ドル安いが、仕様やデザインで見劣りしないと考えられるようになった。くわえて4月には「iBooks Sotre」と「iTunes Movies」が、当局によってサービスを停止させられた。そのため、同紙は「中国では、もはやiPhoneはステータスシンボルではなくなってきている」と書いている。
(参照:https://courrier.jp/news/archives/51974/?ate_cookie=1580350289)
バフェット氏がApple株を購入した半年後の2017年初頭、更に同氏はApple株を買い増します。
それも少量ではありません。すでに持っていた額と、ほぼ同額を買い増したのです。
2017年初頭のApple株価
すでにAppleの株は上がり始めていたので、その姿勢を評価する声もありました。
これからAppleは成長するのだろう、と。
ただし反対する声ももちろんありました。
当時のFortune誌は以下のように述べています。
「Appleは基本的に、新しい投資先がないことを認めています。2016会計年度については、将来のために何十億ドルも向上や製品に投入するのではなく、利益の100%以上を配当と買い戻しで支払いました。
その破滅的な記録と、将来の成長の見込みが低いことを考えると、Appleの先行きは暗いでしょう。
(中略)
Appleは危険な賭けです。価格の大きな急騰、巨大な時価総額、そして成長のための展望は膨らんでいますが、実際には、利益の余地はほとんどありません。BuffettとMunger(バークシャー副会長)は、Appleで大金を稼いだことについて称賛に値しますが、問題は、これからも所有する価値があるかどうかです」
本来設備投資に回さないと行けないお金を、株主への配当や、株の買い戻しに使っている。
もうすでにAppleが利益を出せる見込みはない、と。
Fortune誌以外にもそのような文面は多く見られました。
しかしバフェット誌は、Appleの株をいっさい売らず、批判を尻目にコツコツと買い増していきます。
そして2018年8月2日、Appleは世界で初めて時価総額が1超ドルを超えた上場企業になりました。
つい1年前まで、「もう成長の余地がない」とか「先行きが暗い」と噂されていた企業が、そのまま伸び続けて世界初の1兆ドル企業になったのです。
主軸は今でもiPhoneです。iPhoneの流通台数自体はそこまで伸びていませんが、1台あたりの単価が高額になりました。
しかし消費者はAppleがこれまで築き上げてきたブランド価値を評価し、購入し続けています。
バフェット氏はこの時、Apple株の5%、560億ドル(今のレートで6兆円)を持つ大株主でした。
皆がバフェット氏の先見の明を評価しました。
興味深いのはバフェット氏が同じ月に述べたiPhoneへの評価です。
当時1000ドルを超えるiPhoneXが発売になり、高すぎると批判を受けていました。
「iPhoneはその実用性を考えれば、顧客にとって非常に割安だ。
私は1年に100万ドルを消費する飛行機を持っているが、iPhoneやiPadを利用できるなら、むしろ飛行機を放棄する」
もちろん、株主である以上ポジショントークなのかもしれません。
しかしAppleはこの時自社株を多額の費用を使って買い戻しています。
Apple自身も、投資家の支払う現金より、自社でApple株を所有していたほうが利益が出ると自信を持っていたのです。
現在のApple株価 バフェット氏が最初に購入した2016年より3倍以上になっている
そして現在、もはやバフェット氏のApple株購入が「誤りだった」という人はいないでしょう。
2018年下旬からは、米中貿易戦争のアオリを受けて一時株価が下がりますが、その後もちなおし、今では時価総額を更新し続けています。
数年以内に2兆円を超えるのでは?と予測するアナリストもいます。
確かに、まだまだAppleが躍進する要素はいくらでもあります。
まず、iPhone11より小型・安価な機種が、予想では3月に発表されます。
また、5G対応のiPhoneが年内に発売されます。5Gをいち早く体験したいiPhoneユーザーはこぞって買うでしょう。
更にAppleWatchは、ヘルスケアデバイスとしての側面が評価され、売上を上げ続けています。
AppleTV+等のコンテンツ分野は、Netflix等の競合が強いため苦戦している印象がありますが、5G普及で動画時代が到来した時、iPhoneというデバイスを持っているAppleがどう攻めてくるのか、世界中が注目しています。
バフェット氏は、2019年にほんの少しApple株を売却していますが、その大半は依然所有したままです。
おそらくAppleがバフェット氏の満足するだけの品質を保っている限り、Apple株も持ち続けるのかもしれません。
もちろんウォーレン・バフェット氏や、バークシャー・ハサウェイが完璧な訳では有りません。
同氏が損をしたこともありますし、誰も未来を完璧に予測できるものでは有りません。
しかし、2019年末時点で、バークシャー・ハサウェイが世界で最も利益を上げている上場企業であることは数字に現れています。
「Appleの時代が終わる」という話題は、ニュースサイトやSNSで定期的に上がります。
しかし、「世界一有名な投資家」がApple株を握りしめているうちは、まだ判断を保留していいのかもしれません。