数年前までの「贅沢」は、物の所有がほとんどでした。
高級車に乗り、高いブランドの服や毛皮のコートを来て、高級マンションを買うことが、お金持ちのステータスシンボルでした。
中級層はそんな生活に憧れ、ブランド物をほんの少しずつ買ったり、億ションほどじゃないにしても、良い場所のマンションを買ったりしていた訳です。
しかしここ数年で変化したことがあります。「お金持ち」の「お金の使い方」です。
BBCに2018年、都市研究と経済地理学の学者「Elizabeth Currid-Halkett」が書いた文章に、このようなものがありました。
「近年お金持ちは、”物”に重点を置くことを避け、教育、退職、健康にかなり多く投資しています。これらはすべて重要ではありませんが、中所得の消費者が購入するハンドバッグの何倍もの費用がかかります。
現在、上位1%のお金持ちは、支出の大部分をこうした「目立たない消費」に充てており、その中でも教育が大きなウェイトを占めています(中間所得支出のわずか1%に対して、富裕層は家計支出のほぼ6%を占めています) 。
実際、教育に対する富裕層の支出は1996年以来3.5倍に増加しましたが、教育に対する中所得支出は同じ期間にわたって横ばいのままです。」
例えばブランド品でなくても、それこそGUやしまむらであっても、それなりのおしゃれができるようになりました。
マンションは経過年数と共に魅力的でなくなってきますし、数十年スパンで考えると、価値やステータスを保ったままでいられるのかわかりません。
また、どれだけおしゃれな服を着ても、太っていたり、そもそも不健康であれば、あまり意味がないことに多くの富裕層が気づきました。
更に、世の中がセレブに求めることも変化しています。
日本ではそこまで風潮がないかもしれませんが、アメリカや欧州のお金持ちは、環境問題に配慮していることが求められます。
タバコを吸い、高級車に乗り回し、宝飾につつまれ、フカヒレを食べるよりも、
スタイル良くヘルシーな食事を取り、環境に配慮し、博識であることのほうが魅力的であるとされるのです。
そう、一言で言えば「生活の質」です
いかに高価なものを所有するかではなく、
どれだけ自分の自由にできる時間を持ち、(子どもを含め)高度な教育を受け、健康な食事と体を保ち、毎日を幸福に過ごすか、
富裕層を起点として、”贅沢”の基準が変わってしまったのです。
これは富裕層以外にも言うことができます。
新車は売れなくなってきていますが、フィットネスクラブの市場規模は2013年からずっと右肩上がりです。
それだけ多くの人が”健康に過ごすこと”を大事に思うようになってきました。
人々の求めるものが変化した以上、ビジネスモデルも変化しています。
そうした「生活の質」の追求は、サブスクリプションと大変親和性が高いのです。
いくつか生活の質(QOL)を上げることに寄与するサブスクを上げてみましょう。
ものすごく高級な家具を買ったとして、その家具にウキウキできるのは多くの場合1年未満です。
それよりも、一度きれいな家具をサブスクリプションでレンタルし、部屋に飽きてきたら別の家具と交換してもらう。
そのほうが、低コストで新鮮味のある生活を体験できます。
例:サブスクライフ
ジムはほとんどがサブスクリプションですね。
1回1回お金を払うこともできますが、そもそもが定期的に通うことで体を良い状態に保つことが目的です。
ほとんどの人は毎月定額を支払っています。
どうせ毎月通うから、サブスクにする意味があるのか…?と思うかもしれませんが、
美容室のサブスクリプションは、シャンプー・ブロー等が通い放題なのです。
単に見た目をきれいに保つだけではなく、リラクゼーションとして使うことができます。これはすばらしい”贅沢”ですね。知った時少し感動しました。
なお、シャンプーに通うのはアメリカでは結構メジャーだそうです。
例:MEZON
「家に花を飾りたい」
そう思ってる人はいると思いますが、実際に花屋に行って、花を選んで、花瓶に挿して……となると腰が重いですよね。
お花のサブスクは定期的にお花を届けてくれます。サービスによっては活けた状態で届けてくれるようです。
例:BloomeeLIFE
せっかく買った高い時計も、この服には合わないかも…と悩んだり、
営業で時計は着けないといけないが、正直高い時計を買いたくはない、という方。
そういう方には時計のサブスクはぴったりだと思います。……高い時計は壊さないか心配ですが。
例:KARITOKE
これは何より今の主流はコンテンツのサブスクリプションです。
動画・音楽・本、そしてゲームに至るまで、サブスクリプションが大いに流行っています。
国内デジタルコンテンツの市場規模が、経済産業省から8日に発表されました。
映像・ゲーム・音楽・出版を合わせた規模は、2014年からなんと1.9倍に膨らんでいます。
この調査は2018年に行われたものなので、おそらく今では2倍以上になっているのではないでしょうか。
(参照:https://mainichi.jp/articles/20200208/k00/00m/040/257000c)
特に増加率に寄与したのは動画のサブスクリプションですね。
言うまでもなく、NETFLIXの快進撃が影響しています。
5Gも来ますし、NETFLIXは2兆円近いコンテンツ予算を掛けて、サブスク業界で勝負しに来ていますので、これからも市場規模は増え続けるでしょう。
音楽はSpotifyとAppleMusicがシェアを伸ばしてきています。
日本だとLINE MUSICも人気ですが、LINEがGAFAに対抗できるかどうかは、LINE MUSICの趨勢も関わって来ると思います。
サブスクリプションが流行りすぎて、海外ではもう殆どCDが売れなくなりました。
ゲームのサブスクリプションは、ゲームをする人でなければイマイチ想像がつきにくいかもしれません。
例えばApple Arcadeを例に取ると、100以上のタイトルを月600円でプレイし放題です。
ゲームはプレイしてみるまで、面白いかどうかわかりません。
それなりの額を払って手に入れたゲームを、30分程度しか遊ばない…というのもゲーマーにはよくある話です。
そのような惨事もサブスクリプションならなくなります。
更に5Gが普及して低遅延担った場合、ゲーム機すら買わずにサブスクで済ませられるかもしれません。
Google STADIAや、ソフトバンクが協業しているGeForce NOWは、クラウド上のゲーム機でゲームを動かし、映像と操作だけを手元で行う仕掛けです。
現状STADIAは期待はずれだ、と言われていますが、その評判も主に回線の遅延によるものです。
低遅延になってくれば、普通に据え置き機と同じようにプレイすることができます。
クリスマスのたびにゲーム機が品薄になる…という展開は、そろそろ終わりかもしれません。
これからもっといろんなサブスクリプションが生まれてくるものと思います。
カミソリのサブスクやモバイルバッテリーのサブスク、写真選定のサブスク等、今まで想像していなかったようなサブスクリプションが生まれ続けています。
しかし収入は限られているため、多くの人はどのサブスクリプションを採用するか、取捨選択が迫られます。
特にデジタルコンテンツは、これから黄金時代を迎えることもあり、皆の選択により趨勢が分かれることになるでしょう。
サブスクリプションの提供側も必死です。
毎月一定額の収益が見込めるので、経営は安定するかもしれませんが、
信用を失墜したり、ライバル会社が盛り上がった場合には、致命的なダメージを被るかもしれません。
材料費の値上がりや貨幣相場変動の際、どう対応するのか。サービス変更や価格変更のタイミング等も、相当な慎重さが求められます。
また一度提供したらおわり、ではなく、毎月のフォローも必要となります。
価格にあった価値を提供できているか、もっというなら「顧客を幸せにできているか」常に提供側は向き合っていなければいけません。
決して楽な競争では無いと思います。
しかし、常に顧客に満足を届けられるなら、これ以上無いすばらしい関係です。
消費者としては、どれだけ生活の質が良くなるのか、これから企業がどんな「幸せ」を届けてくれるのか、楽しみにしたいと思います。