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ダンサーと経営者の思考は似ているという話

しおぴー(寄稿者) プロフィール

しおぴー(30)
ダンサー→サラリーマン→経営者という変わったキャリアを持つ。
現在は社員300名程度の会社を経営。

これまでの私自身のキャリアから、ダンサーの思考はこれからの企業経営の思考に活かせる部分が多いと感じています。10年以上かけて培ったダンサーとしての経験や学びを活かし、300名の社員を抱える中小企業を経営しています。

1.ダンサーの思考とは

ダンスはスポーツとアートの両面があると考えています。「一定の型や基準に沿って、ある程度明確に勝ち負けを判断する」というスポーツ的な側面と、「多様な自己表現、価値観、あり方を許容する」というアートの側面です。

スポーツの視点で見ると、審査員やお客さんの求めるスキル、構成、振付と自分たちの強みを突き合わせることが極めて重要でした。また、他のチームにないオリジナリティをどのように表現するかも大切な要素です。多くのダンサーは、自分たちの差別化された強みを徹底的に分析し、理解し、どのようにそれを最大限表現するかを無意識のうちに、合理的に考えているのです。そしてそのようなチームが活躍していけるのです。

例えば、スキルは高いのに振付が下手であればあまり盛り上がりません。振付や構成はものすごく良いのにありきたりな内容だと、すぐ飽きられてしまいます。このように、オーディエンスのニーズを自分たちの強みを活かして高い次元で満たしつつ、ライバルと差別化されたポジションを取っていくことがダンスシーンで上位になるために必要なのです。

しかし実際には、これらが全て上手くかみ合っていても優勝できないことも多々あります。逆に、よほど周囲とスキル面で圧倒的な差がない限り、スポーツの視点だけで優勝できることは無いと言っても過言ではありません。そこで重要になってくるのがアートの視点です。アートの力が、スキルや構成、振付の劣勢を覆すのです。

アートとは「多様な自己表現、価値観、あり方を許容する」という特徴を持っていると述べました。ダンスシーンにおいては、「自分はこれが好きだ!」「本気で最強だと思っている!」「自分はこんな人だ!」という強烈な自己表現のメッセージがこれにあたります。突き詰めた人であれば、哲学や生き様の領域にまで昇華させている人もいます。このようなメッセージは受け手の感情を強く揺さぶり、感動や共感を与えるのです。

ジャンルは違いますが鹿児島実業高校の男子新体操部が良い例です。もちろんスキルも高いのですが、それよりも自分たちの表現や価値観を前面に出し、オーディエンスの大きな共感を得ています。一定の評価基準が設けられているスポーツとしてみると点数が伸びませんが、観客の拍手の数だけで見ると他校を圧倒します。この拍手の数が勝敗を決めることもある、という点がダンスにアートの側面を持たせます。もしダンスコンテストの文脈で男子体操部のインターハイが行われた場合、鹿児島実業高校は優勝もできるでしょう。

このように多くのダンサーは、スポーツとアート両方の面からダンスを捉え、また無意識のうちに追求しています。

2.ダンサー思考と企業経営の関係

顧客起点だけでなく、価値起点の戦略を立案し実行することが、昨今の経営環境では重要になってきたと感じています。そして実際にこのような企業が認められ、多くのファンを獲得しています。

顧客起点の経営戦略とは従来型の戦略です。商品特性、顧客ニーズ、自社のコスト構造、競合の抱える難所から成功要因を導き出し、自社の立ち位置からコストリーダーシップ、差別化、集中戦略のいずれかを選択します。そしてその実現のために自社の強みを活かす、もしくは獲得していくアプローチを取ります。市場と競合と自社の状況から、合理的に戦略を練る姿はまさに、ダンスでいうところのスポーツです。

これまではこのような画一的な勝ち方のパターンが体系化されたものを学び、実践することで企業が存続していました。もちろんこれからもシェア上位層はこの文脈の中で存続し続けるでしょう。しかし最近になり、顧客起点ではない戦略を取る企業(当社も含め)が大きな成果を上げ始めています。それが価値起点です。

価値起点の戦略とは、「我々はこういう会社で、こういうのが好きです!共感してくれる人が来てくれれば良いよ!」というメッセージを前面に出し、また実行する戦略です。このようなダンスシーンで感じたアートの力が今、企業経営でも重要になってきています。

特に顕著なのがマーケティングとチームビルディングの領域です。モンベルというアウトドアの総合メーカーを見てみましょう。品質、価格共に非常に優れたブランドですが、同時に「自分たちが良いと思うものづくり」で共感を集め、非常に多くのファンを巻き込んでいます。このファンが、お客さんになり、時には社員になってチームビルドを行っているのです。このファン同士の共通価値がさらにブランドに対する共感を高めていきます。

もちろんこれまで通り、顧客ニーズやコスト構造上達成しないといけない“従来型”の前提条件を最低限達成しないといけないことに変わりはありません。しかしその巧拙のみが企業の能力を決定する時代は終わったように感じます。これからはダンサーの思考と同じように、アートの視点も取り入れた経営を行っていくことが求められているのかもしれません。

3.アートの力をいかに獲得し活用するか

私がおすすめするのは「組織は戦略に従う」という考え方です。このような劇的な戦略転換を行うには、ボトムアップよりもトップダウンが必要です。そのために経営者がビジョンや理念のような価値観を大切にし、組織全体に対してしつこく発信し、本気で実現できると思い込むことがまずは必要です。

そのようなトップに続く社員は必ず組織にいます。今の新卒者の多くもそういうトップの会社に入社したいと考えています。巻き込める人材から徐々に巻き込み、彼らが組織の過半数を占めた時、大きく会社の視点は価値(アート)起点へと変化します。

「ビジョンや理念で飯は食えない」と言う人ともたくさんいます。もちろんビジネスの原理原則を破ってまで価値観を大切にしろとは言いません。製造業であれば設備稼働率、新薬業界であれば特許、アパレル業界であれば在庫リスク等、これらの原理原則をきちんと押さえなければなりません。その上でこれまでは顧客に視点が向いていたのを、もっと自社の理念や価値観に視点を向けて戦略の立案や組織文化の醸成をしてみてはいかがでしょうか。

Published by
安藤隆史