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跡継ぎと起業は実は相性が良いのかもしれないというお話

しおぴー(寄稿者) プロフィール

しおぴー(30)
ダンサー→サラリーマン→経営者という変わったキャリアを持つ。
現在は社員300名程度の会社を経営。

跡継ぎと起業、この二つは正反対のものと捉えられることが多いですが、本当にそうでしょうか。跡継ぎは1から2へ引き継いでいくこと、起業は0から1を生み出すこと、と考えると確かにそういうかもしれません。しかしより具体的な事象にフォーカスしてみるとかなり相性が良いのではないか、と思う部分が多々あります。それではどのように相性が良いのか、これから解説したいと思います。

家業に入る理由

まず初めに、跡継ぎの生態ついてご説明します。

跡継ぎの集まりにてアンケート調査をした結果、家業に入る理由は「最初からそういうものだと思ってた」「親孝行するため」という義務感や使命感が大半を占めていました。逆に、「やりたい仕事だった」という理由で入社した人は少数派でした。要するに、「跡継ぎ自身がやりたいこと」と「家業が行っている本業」は大抵の場合違うということです。現に、全く関係ない業界の会社へ新卒で入社し、数年経って家業に戻ってくる跡継ぎが多いのです。

何故新規事業立ち上げではなく起業なのか

記事を読まれている方の中には、「跡継ぎなら新事業として本業の中で好き勝手やれば良いのでは?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。結論から述べると、「できるなら新規事業でも良いが、起業が適しているパターンが多い」です。ではそのパターンとはなんなのでしょうか。

上で述べたように、跡継ぎは特に入社当初において自分が本当にやりたいことと本業が違うことが多いです。その中でやりたいことを追求してしまうと、本業のリソースを、本業とあまり関係ない領域で使ってしまうことになります。これには非常に大きなデメリットがあります。これを回避するために新規事業という枠組みで行うより、一から本業と並行して起業した方が良いケースがあります。ここではその大きなデメリットを2つご紹介します。

一つ目は、本業の会社としての方針や、親(社長)の考える跡継ぎとしての期待役割から大きく逸脱してしまうことで、親子間の関係性が壊れる可能性があるということです。ファミリービジネスが親子喧嘩によって組織崩壊する話を聞きますが、大抵は親からの期待役割に反して、自分のやりたいことを強行しようとした結果です。特に新卒から別の会社で数年過ごして家業に入社した跡継ぎは、「親であり社長」という感覚に最初は慣れません。社長ではなく親として接してしまうのです。そして社長も、部下ではなく子として見、言わなくても分かる、以心伝心ができている存在として接してしまうのです。この感覚のずれが大きくなった時、取返しのつかない親子喧嘩に繋がります。

二つ目は、既存スタッフからの信頼が大きく損なわれる可能性があるということです。スタッフ、設備、備品。それらは全て、現社長が本業を成長させるために投資しているものです。これらのリソースを本業とは関係ない領域で跡継ぎが活用してしまうと、「自分勝手」のレッテルを貼られしばらくは社内で苦労することになるでしょう。あまつさえスタッフの仕事を増やしてしまった時は、信頼関係はズタズタになってしまいます。

このように、やりたいことが本業の延長線上にない時は、新規事業の立ち上げではなく起業した方が良い場合があります。

何故跡継ぎと起業の相性が良いのか

ようやく本題の問いになりますが、何故跡継ぎと起業の相性が良いのか。それは一般の個人では獲得しにくい3つの無形資産が活用できるためです。実際に私もこれらの資産を活用して本業とは別に起業を行っています。

まず、いわゆる世間からの信頼です。特に跡継ぎに対する行政や金融からの信頼は高いと言えます。これは本業以外で起業する場合も当てはまります。その秘密は「家業」です。

行政や金融の懸念は「バックレ」です。例えば、行政の補助金を活用した起業家が、ちょっと上手くいかなくなるとすぐいなくなることに困っている、なんて話をたまに聞きます。

その中で家業があるということは、それだけ長い年月をかけて代々地元に貢献してきたという信頼の蓄積があります。(裏を返すと、本業がある限り逃げられない、ということです。)「バックレ」のリスクが最も低いのが跡継ぎであり、そのために手厚いサポートや融資を行政や金融機関から受けることができるのです。

次に多様な人的ネットワークです。起業家はなかなかJCやロータリークラブ、ライオンズクラブに新規で入る機会がありません。これらの団体は代々跡継ぎが入会し、強い繋がりと豊富な資源を共有できる場になっています。事業主にとって大変心強い存在ですが、その参入障壁は起業家にとっては高いものです。

一方で跡継ぎとして新規事業を立ち上げているだけでは、起業家のグループに溶け込むことができません。抱えているリスクの大きさや悩みの違いで壁を作られてしまいます。

跡継ぎ 兼 起業家の肩書を持つことができれば、この毛色の大きく異なるグループに所属することができ、多様な人的ネットワークを構築することができます。

最後に知識です。経営、財務、マーケティング、人材等、幅広い視点で物事を見、判断できる能力は実際に経営サイドに立っている跡継ぎに一日の長があります。特に資金繰りの重要性とビジネスの要所を理解しているため、構想段階で大きくこけるような事業計画は作らないでしょう。

跡継ぎが起業をする上で気を付けることは何か

跡継ぎと起業は相性が良いと述べてきましたが、もちろん気を付けるべきこともいくつかあります。ここではいくつかそれをご紹介します。

例えば、最近のテーマで言うと会社が副業を解禁しているかは確認しましょう。副業解禁していないのに跡継ぎが起業したとなれば社内からの信頼は失墜し、親子喧嘩にも繋がるかもしれません。

また親を不安にさせないようにしましょう。「跡継ぎとして戻ってきたはずなのに気付いたら起業してる…。もしかして、継ぐ気がなくなったのか?」と不要な心配させてしまっては、何のために家業に戻ったのかが分からなくなります。しっかり本業もやって、社長ともコミュニケーションを密にとりましょう。

起業のために費やしている時間を本業に費やすべきではないか、という葛藤もあることは覚悟しておきましょう。なんのために跡を継ぐのか、起業するのかをしっかり自問自答し、メンターにも相談して腹落ちさせておくことが重要です。「なんとなくやってみたい」で起業すると、全部が中途半端になってしまいますし、周りからもそう思われてしまいます。

最後に、やはり跡継ぎと起業では求められる能力が違うことも理解しておきましょう。確かに無形資産の活用という面では非常に相性が良いと思います。しかし一方で、能力的な面で見ると必要なものが異なります。起業においては泥臭い営業や強力なビジョン、しつこさが非常に重要になってきます。また周囲の変化にかなり敏感になっていなければなりません。財務体力がある本業とは根本的な違いがこういった部分に現れます。

最後に

いかがだったでしょうか。

跡継ぎと起業、相性が良い部分もあり、気を付けなければならない部分もあり。骨を埋める覚悟で家業に邁進するもよし、やりたいことにどんどんチャレンジするもよし。便利なツールがあり、働き方も多様化し、長寿化が進んでいる現代において、後悔しない選択をすることの重要性が高まっているのかもしれません。

Published by
安藤隆史