アメリカの半分の州が、コロナよりも経済悪化を問題視し、規制を緩める

失業者も死者も多い米国の現状

コロナウイルスは多くの死者を出しましたが、ウイルスとの戦いは多くの失業者も出しています。
日本ではまだそこまで多くありませんが、アメリカのように解雇が容易な国では顕著です。

Weekly jobless claims hit 3.84 million last week, higher than economist expectations of 3.5 million.

The total brings the rolling six-week figure to 30.3 million.

https://www.cnbc.com/2020/04/30/us-weekly-jobless-claims.html

先週の失業保険金請求は、384万件に達し、経済学者が予想した350万件を超えました。
6週間の合計では、3000万件を超えます。

https://www.cnbc.com/2020/04/30/us-weekly-jobless-claims.html

グラフで見ると一目瞭然、リーマンショックと比較にならないほどの失業者が発生していることが分かります。
失業者はアメリカの労働年齢の18%以上に及びました。この数字は1930年の大恐慌以来の数値です。

規制解除を求めるデモと、ロックダウン継続を求めるデモ隊が衝突

しかしアメリカは感染者数・死者数も多い国です。
コロナ感染者は100万人を超え、死者数は5万8千人を超えました。
参考までに、日本の確認された感染者は14,305人、死者数は455人です(5月1日現在)

それほどの「悲劇」に見舞われている国ならば、ロックダウンし、早く終息することが大事にも見えますが、アメリカの半分の州は、飲食店や小売店の営業を再開させることを検討しています。

なぜそのような判断をしようとしているのでしょうか。

一概に「命の軽視」とも言えない状況

ロックダウンを積極的に支持している人は、「命よりも経済を優先するのか」と、規制緩和派に詰め寄ります。しかし、アメリカの場合一概にそのような二元論で語ることは難しいかもしれません。
アメリカでお金を持っていないことは、そのまま死につながりかねないからです。

日本でもし病気になった時、たとえ失業し、口座残高が0円で、財布にお金がなかったとしても、医療を受けることが出来ます。
例えば「無料定額診療」制度があります。地域ごとに設定された年収よりも低い場合、受診料が無料になるのです。
また、国民健康保険制度により、多くの治療は3割負担で受けられますし、高額医療費制度により一定の金額以上の医療費は払い戻されます。

しかしアメリカでは事情が変わります。
そもそもの医療費が高額です。例えば日本でCTスキャンを撮る場合、全額負担うしたとしても18,000円~40,000円程度ですみます。多くの人の場合、更にそこから3割負担となり5,000円~10,000円ですむのです。

アメリカの場合、CTスキャン自体に10万円以上かかることもめずらしくありません。
貧困層は保険にはいれませんし、さらに保険に入っていたとしてもCTスキャンは対象外だったり、何か病気を誘発するような生活習慣がないか、等厳しくチェックされます。

他にも、(週によって変わりますが)救急車が有料だったり、入院や手術で家を買えるほどの金額が請求されたりと、医療コストが日本とは段違いなのです。

トランプ大統領は「保険未加入者のコロナ感染者の治療費を免除する」ことに同意しましたが、病気はコロナウイルスだけではありません。
そんな中で失業したらどのように感じるでしょうか。命の危険を感じるのではないでしょうか。

他にも家賃を払えなくなった場合、(これも州によりますが)それほどの期間を置かず家から退去を命じられたり、ライフラインを止められることもあります。

アメリカでも一人当たり13万円の現金給付が決められましたが、病気の際それがどの程度助けになるかは怪しいところです。
また、滞在許可証を持たない移民(800万人という説有)や、字を読めない人(1600万人という説有)も少なくありません。
そういった人にとって、今回の経済危機は「命の危機」なのです。

「経済」を優先する国は他にも

他にもロックダウンより経済を優先するよう、決断した国はあります。
例えばブラジルでは累計感染者が8万5千人、死者数が5,900人を超えました。
一応外出自粛例は出ていますが、多くの店や人がそれを守っていません。
そもそも大統領自らが外出自粛に反対しています。

政治混乱も感染拡大の要因だ。ボルソナロ氏は社会隔離政策を掲げる保健相を解任し、早期の経済再開を求める。連邦政府と州知事が連携できておらず、一貫性のある政策がとれていない。ボルソナロ氏は28日、死者数が増加していることについて「残念なことだ。でも私にどうしろというのか」と述べ、批判を浴びた経緯がある

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58688600R00C20A5000000/

幾人かの著名人も「経済優先」の意見を上げています。
たとえばテスラのCEO、イーロンマスクは以下のように述べています。

テスラCEOのマスクはまた、トランプ支持者の投稿に「同意見だ」とリプライした。「今回のパンデミックで最も恐ろしいのは、ウイルスそのものではない。米国人が腐敗した政治家の意見に、たやすく操作されてしまうことだ」と、そのアカウントは述べていた。

https://forbesjapan.com/articles/detail/34188

また日本でもホリエモンこと堀江貴文氏が、飲食店や映画館等の自粛要請等に反対の意見を示しています。

「経済を優先する国」VS「コロナ封じ込めを優先する国」

コロナウイルスにより多くの変化が起きていますが、それは国同士の関係において、更に顕著に表れるかもしれません。

今はとにかく「行動自粛」「感染封じ込め」が是とされていますが、
死者を多量に出しつつも、いち早く活動を再開した国が経済的に優位な位置を占めた場合、経済優先こそ正しかった、という声もあがるでしょう。
実際、経済再開派の方の声は日に日に大きくなっています。

これを書いている私自身、どちらを「正義」とも言い難いです。
コロナ封じ込めは全力を尽くすべき災厄ですが、経済的困窮が今の時代でも弱者の命を奪うことは、多くの国で見られている事実です(といっても日本では、しかるべき処置をとれば死ぬことはあまりありませんが)

結局のところ、全てが終わってみないとわからないのかもしれません。人類が初めて遭遇する、と言っていいほどの大きな危機です。
今ある材料で「正義」を語るよりは、コロナ後の「反省会」で最適解を探り、次のコロナ、次の感染症、次の災厄時のマニュアルを作ることが重要かと思います。

Published by
安藤隆史