7月1日から小売店でのレジ袋有料化が始まった。
これは容器包装リサイクル法の省令改正によるものだが、持ち手が付いたレジ袋に対しては、1枚1円以上の価格を付けなければならない。
一方、持ち手がないものやバイオマス素材が25%以上配合されている場合は無料でも良い。
レジ袋の有料化に対しては、環境のためには良いことだとする意見がある一方で、不便であり値段が高いという不満の声も上がる。
また、折しも新型コロナウィルスの感染流行の最中でも有り、使い捨てにできるレジ袋は衛生的だとの指摘もある。
消費者だけではない。小売店側からの不満も聞こえる。
さらに、新型コロナウィルスの感染流行により利用客が激減した飲食店が活路を見出したテイクアウトに水を差すとの懸念も出ている。
レジ袋の有料化は、いろいろなことを考えさせてくれそうだ。
レジ袋の有料化が容器包装リサイクル法に盛り込まれたのは、プラスチックゴミが海洋に流出し、海洋生物が餌と間違えて飲み込んで死んでしまったり、微細なマイクロプラスチックとなり生態系に悪影響を及ぼしたりする海洋汚染となっていることを防ぐためとされる。
また、プラスチックゴミを焼却する際に二酸化炭素が発生することが、二酸化炭素削減という世界的な取り組みにおける課題になっていることもある。
このようなプラスチックゴミの削減に取り組むべきという国際社会の気運の高まりは、欧州やアジアにおけるレジ袋の使用制限の広がりをもたらした。
しかし日本は経済界への配慮からか、2018年の先進7カ国(G7)での「海洋プラスチック憲章」への署名を拒否したため、国際社会の機運に乗り遅れた感があった。
そこで2020年に予定された東京オリンピック・パラリンピックを控えて、環境問題への取り組みを国際社会にアピールする必要が生じた。
2019年5月に政府が『プラスチック資源循環戦略』(※1)でレジ袋の有料化を方針として打ち出し、6月のG20大阪サミットでは『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』(※2)として、
“海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す”
と表明したのだ。
これらの具体策の一つとして、レジ袋の有料化に踏み切った。
※1:『プラスチック資源循環戦略』
※2:『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン実現のための 日本の「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」|外務省』
その結果、レジ袋はスーパーやコンビニなどの小売店で1枚2~5円で販売されることになった。
しかし、これまで無料だったレジ袋がいきなり2~5円になれば、当然高く感じる。そこでネットの業務用スーパーで販売されているレジ袋の価格を調べると100枚で90円前後(1枚0.9円前後)で売られている。製造原価は0.2~0.3円とも言われている(※3)。
このようなことから、小売店はレジ袋有料化で儲けているようにも思えるが、狙いはレジ袋の削減で有ることを思えば、おおよそ妥当な値付けであるように思える。
一方、料理のテイクアウトを行っている店などでは消費者の不満や不便さの回避のために、レジ袋の有料化を避けている。そのために、仕入れ値が割高になるものの、有料化義務の対象外となる厚さ50マイクロメートル以上のレジ袋(繰り返し使用できるとされる)や、バイオマス素材を25%以上配合(環境負荷が軽いとされる)のレジ袋を配布しているのだ。
それではレジ袋を有料化した店が得た利益はどのように扱われているのか。法令ではこの利益の使途についての縛りはない。経済産業省・環境省によれば、有料化により生じた売上の使途については事業者が自主的に情報発信することを推奨しており、先行事例としては環境保全活動や社会貢献活動への寄付に使われているという。(※4)
つまり使途の規定や使途を明らかにする義務はないため、本当のところは分からない。
たとえばコンビニではレジ袋を有料化した分全体の売上が上がるため、加盟店から本部へ支払われるロイヤリティーが増える。
ファミリーマートやローソンではレジ袋の売り上げを雑収入にしているが、セブンイレブンは商品の売り上げとして経常しているという。(※5)
※3:『エコバッグはレジ袋何枚分?レジ袋有料化はエコや節約になるのか | Money Motto!(マネーモット)』
※4:経済産業省・環境省『プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン』
※5:『「レジ袋有料化」割れたコンビニと外食の対応 | コンビニ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準』
外食企業では、新型コロナウィルスの感染流行による来店者激減を補うために、テイクアウトに活路を見出している。
テイクアウトではどうしてもレジ袋が必要になる。有料化には不都合があるのだ。
一つは衛生面だ。マイバッグの利用者は、果たしてこまめにバッグを洗っているだろうか。食品を運ぶためには使い捨てのレジ袋の方が衛生的である。
また、形状がまちまちなマイバッグでは、店ごとに異なる容器を安定させて運ぶことができない。料理が傾いたり横から圧迫されたりすることで、料理が崩れたりこぼれたりしてしまう可能性が高いのだ。特に平たい寿司・弁当や汁ものなどは危険だ。そのため、店ごとにカスタマイズされた形状のレジ袋を使ってもらう必要がある。
これらの理由から、外食企業はトラブルや売上減少を避けるためにレジ袋の無料化を継続している。たとえば日本マクドナルドや日本ケンタッキー・フライド・チキンなどのファストフードは無料を継続している。
吉野家やくら寿司、王将フードサービス(餃子の王将)もバイオマス素材25%以上のレジ袋を無料提供している。
いずれの企業も、コストアップの負担は店舗運営の効率化などで吸収するとしている。
もちろん、これらのチェーン以外の飲食店も、テイクアウト客を重視しているためレジ袋を無料提供すべく努力しているはずだ。
それにしてもタイミングは悪かった。
これは想定できなかったことだが、新型コロナウィルスの感染流行が、人々の衛生観念を変えたため、使い捨てのレジ袋が見直されるようになった。
実際、米国ではカリフォルニア州が2016年から法律で有料にしていたレジ袋などを今年の4月から無料に変えている。サンフランシスコではマイバッグの店内持ち込みを禁止した。イギリスでも2015年から有料にしていたレジ袋を一時的に無料としている。(※6)
新型コロナウィルスの感染流行が影響を与えたのはレジ袋だけではない。
感染拡大を防ぐために、大量のディスポーザブルな衛生用品としてプラスチックの利用が増加したのだ。
テイクアウト用の容器、フェイスシールド、マスク、仕切り用のアクリル板などだ。また、医療現場で使用する製品は基本的に再利用できない。
さらにスーパーなどでもこれまでむき出しで販売していた野菜やパンなどを個装して陳列するようになった。
そしてこれらのプラスチック利用を加速させるように、原油価格が低下した。世界的に移動が自粛されたことで、燃料としての原油消費が低迷したためだ。
※6:『レジ袋 欧米は再び無料化の動き 新型コロナ感染対策で | NHKニュース』
このようにあらゆる用途でプラスチックが利用されている中で、レジ袋の使用を削減することで、本当に環境問題は改善するのだろうか。
というのも、レジ袋が日本国内のプラスチックゴミ(年間約900万トン(※7))に占める割合は僅か2%と言われているためだ。(※8)
したがって、レジ袋をまったく使用しなくなったとしても、その効果は誤差程度と思える。
このことは政府も分かっているらしく、経済産業省のホームページに記載されている以下の文言にも、レジ袋削減でプラスチックゴミが減るとは明記されていない。あくまでライフスタイルを見直すきっかけが目的だとしている。
令和2年7月1日より、全国でプラスチック製買物袋の有料化を行うこととなりました。これは、普段何気なくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとすることを目的としています。
プラスチック製買物袋有料化 2020年7月1日スタート(METI/経済産業省)
さらに海洋のプラスチックゴミという結果について言えば、レジ袋を含むポリ袋の割合は重量ベースで僅か0.4%なのだ。高い割合を示しているのは漁業で使われている網やロープ、ブイ、その他の漁具などで、約60%を占めている。(※9)
※7:農林水産省『食品産業におけるプラスチック資源循環をめぐる事情』
※8:環境省環境再生・資源循環局総務課リサイクル推進室『レジ袋有料化について』
※9:環境省『海洋ごみをめぐる最近の動向』
レジ袋業界の肩を持つわけではないが、文字通り「袋」だたきにあっているレジ袋を援護する主張も紹介しておきたい。
レジ袋であるポリエチレン製品を製造販売している積水化学工業社はホームページでポリエチレンがいかにエコであるかを主張しているので、その一部を抜粋してみた。
ポリエチレンは理論上、発生するのは二酸化炭素と水、そして熱。ダイオキシンなどの有害物質は発生しない。
石油精製時に(ポリ)エチレンは必然的にできるので、ポリエチレンを使用する方が資源の無駄がなく、エコ。ポリエチレンは石油をガソリン、重油等に精製した残り・余りもの。
ポリ袋は見かけほどごみ問題にはならない。目に見えるごみの1%未満、自治体のごみのわずか0.4%。
ポリ袋は紙袋の70%のエネルギーで製造可能。
ポリ袋の輸送に必要なトラックの量は、紙袋の7分の1。
ポリ袋の製造に必要な水の量は、紙袋の25分の1。
『脱プラ、脱ポリ、紙袋へ切り替えをご検討のお客様へ|1958年創業のポリ袋製造業|清水化学工業』
しかも、既に衛生面で問題があるとしたマイバッグは、環境負荷の面でも注意が必要だ。
日本LCA学会の研究発表によれば、マイバッグはレジ袋に比べて50倍の環境負荷がかかるというのだ。つまり、マイバッグを使う以上は50回以上は使えばレジ袋より環境負荷が小さくなる。(※10)
ただし、衛生的に使うためには頻繁に洗わなければならず、その際の環境負荷も考慮すれば、より長く使える耐久性が高いマイバッグが必要になる。
※10:日本LCA学会『環境配慮行動支援のためのレジ袋とマイバックのLCA』
先日ホームセンターと100円均一ショップで「なるほど」と思う光景を目にした。
多くの人たちがポリ袋の束を購入していたのだ。
つまり、重くてかさばり、しかも衛生上不安なマイバッグを持ち歩くよりも、薄くて軽く、使い捨てにできる衛生的なポリ袋を自分で用意して買い物をすればよいということに気付いた人たちだ。
しかも、自分でまとめ買いしておけば、レジで購入するよりも遙かに安価に手に入るではないか。
このように、残念ながらレジ袋の有料化は、環境問題の改善には直接的な効果がないかもしれない。
ただ、経済産業省のホームページに記載されていたように、「ライフスタイルを見直すきっかけ」にはなるのではないだろうか。
環境問題は、一筋縄では行かないテーマだからだ。