コラムヨーロッパ地域・海外政治・経済

菅総理が計画する「デジタル庁」どんな施策?他国ではどうなっている? 

菅政権が早速行う改革の一つに、デジタル庁の創設があります。
今までバラバラだった行政のデジタル化を、一本化してすすめるための省庁です。
この点に関して「日本は遅れている」とよく言われてきましたが、海外ではどのような施策が行われているのでしょうか。例を上げてみてみましょう。

IT大国エストニアとは

情報化社会で世界的に有名な東ヨーロッパに位置する国、エストニア。

バルト三国の一つとして多くの日本人にとっては、あまりなじみのない国かもしれません。日本とエストニアの意外な接点は、実は『相撲』です。大相撲で『角界のディカプリオ』こと把瑠都関(本名・カイド・ホーベルソンさん)が、出身地であるエストニアの国会議員を務めているのです。

エストニアは、かの有名な『スカイプ』発祥の国としても知られています。そうした、IT関連に強い民間の地盤もあり東西冷戦後の独立以来行政や医療分野に関して、官民連携して協力に電子化を進めてきた国です。

先進国の中でも電子化の遅れている日本が、世界一紙を使う国だと揶揄されるなか、エストニアにおいては、行政にまつわる手続きのなんと99%を電子交付できるほど、高度情報化が進んでおり、『電子国家』『電子政府』の異名を持つほどです。

そうした、先進性を誇る中で、我が国も環境の違いこそあれIT関連政策のお手本として、政策研究や官民交流が以前から行われています。

1枚で手続きが完了する便利なIDカード

電子国家として先進するエストニアでは、我が国にはないデジタル化による恩恵があります。

特筆するものとして、『e-IDカード』があります。これは、最近になり日本でも政府が普及を呼び掛けている『マイナンバーカード』のように身分証明書として使用するもので、15歳以上の国民が保有するものです。機能として、身分証明書としてはもちろん。運転免許証、電子マネー、健康保険証など、様々な機能をすでに取り入れています。

これにより、日常生活で必要な手続きが、我が国のように、申請書に手書きして、身分証明書をコピーして…。などという一連のストレスになる手続きを、スキップすることができるのです。それに加えて、このカードを使用することで、税金の申告や選挙の投票でさえもインターネット上で済ませることができるというのも驚きです。

高度化するシステムに対応できるかが課題

電子国家として大成しているかに見えるエストニアにおいても、すべてがうまく回っているわけではないようです。この問題は、更に規模の大きな日本にとってより、深刻に表れる問題の一つです。

デジタル化により日々の生活は高速化が進み、手続きの簡略化が図られます。しかしながら、システムの高度化に伴い、一定数ついていけない国民が存在することです。エストニアにおいても、行政面での高度情報化は進んでいますが、日常の決済システムなどは、カード払いや現金払いが混在し、日本でも急速にすすんでいる電子決済に関しては、まだ対応していない部分も多くあるようです。

日本では、当然のごとく、超高齢社会のため、これから新しい技術を習得することが不可能な方もいるほか、新しいものに関しては反発される方が一定数存在します。それは、先のサイバーセキュリティ担当大臣として勤められていた大臣ご自身が『USBメモリー』をご存じない。というような例を見ても、明らかだと思います。

ペーパーレス化、電子化を進めるうえで新システムを導入するのは便利なことですが、リテラシーの格差を埋めることができない以上、旧態のシステムも併用しなければならないという、無駄も存在するようです。

デジタル庁は縦割りの弱点を打開する

菅総理が新設を目指すデジタル庁とは何をするところなのでしょうか。我が国では、世界に比較してIT化が遅れていることは皆さんもご存じの事と思います。

世界的にみても、ガラパゴス化が顕著で中でも、コロナ禍の影響で『FAXが現役』『ハンコ文化』などが取りざたされたのも記憶に新しいことと思います。しかし、政府が今まで対策を取ってこなかったのかと言えばそうではありません。

我が国のIT政策は1994年から始まっており『電子政府』の名のもとに高度情報通信社会を目指して動いてはいました。中でも、2001年当時の森喜朗総理大臣が掲げた『e-Japan戦略』は5年以内に日本を世界最先端のIT国家に押し上げるという強力なものでしたが、成果が得られていないのは周知のとおりです。

そこで、今回菅総理が目指す『デジタル庁』は2022年4月の設立を当初目指しておりましたが、所管の平井デジタル改革担当大臣は、2021年中の新設を目指す方針。かなりのスピード感を持った改革を行うようです。

実際に目指している内容は、まず大筋としては、各省庁に散らばったIT・デジタル部門を統合し、専門性の高い所管庁を作ることでしょう。というのも、現在では省庁どころか、政府内の大臣ですら、菅内閣においてようやく平井大臣に一本化されましたが、それまでは、情報通信技術(IT)政策担当大臣、総務大臣、経済産業大臣、経済再生担当大臣等4人も在籍。そのうえで、内閣及び各省庁にIT関連の対策チームがありました。こうした縦割り行政の弊害を少しでもなくし、高度情報通信社会を急速に進めることがデジタル庁創設の狙いです。菅総理が発足を目指す『デジタル庁』のモデルとしているのが情報先進国であるエストニアの、経済通信省(MKM/Ministry of Economic Affairs and Communications)でICT、通信、システム管理をつかさどる省庁です。また、最近の会見では、他にもシンガポールやアメリカ合衆国の例も参考にして政策を進めているようです。

情報社会の安全確保が目的

新しい省庁とは言っても、これから全く新しい事業を始めるわけではないと思います。これから行われる政策として有力なのは、2019年6月にもたれた 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の官民データ活用推進戦略会議で示されていて『デジタル時代の新たな IT 政策大綱』にまとめられています。

これを受けてデジタル庁のすすめる政策は大きく分けて二本立てで進むと思われます。一つ目の柱は、データの安全・安心・高品質を担保すること。2つ目は官民のデジタル化を強力に推進することです。

デジタル庁の2本の柱

【1つめの柱】 データの安全・安心・品質
  1. 「国際データ流通網」の実現 →データ・フリーフロー・ウィズ・トラスト(DFFT)に基づく国際データ流通網の拡大
  2. 個人情報の安全性確保 →個人情報の保護
  3. 重要産業のデータ管理の強化→AI・IoTを活用し産業部門の資産流出を防ぐ
  4. 政府・公共調達の安全性確保 →政府内でのクラウドサービスの導入
【2つめの柱】官民のデジタル化の推進
  1. 行政のデジタル化の徹底 →マイナンバーカードの利用拡大
  2. 民間部門のデジタル化時代への対応の促進 →企業のデジタル化・水道などのインフラシステムの共通化
  3. プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備等の基盤強化→ネット環境の法制化の推進
  4. AI 活用型(AI-ready)社会の実現 →教育等へのAI 導入や人材育成
  5. 5G 技術の全国展開 →5G を軸としたインフラ再構築
  6. デジタル時代の新しいルール設計 →スマートモビリティやドローン等の法制化。

菅政権の目玉政策として初めに打ち出されたデジタル庁の創設は、私たちの生活をより便利に変えてくれることは間違いありません。ユーザーとして利用する側の私たちも日々変わってゆくシステムに追いついていくことが大切です。

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