9月14日、「金星に生命の兆候を発見か?」という大ニュースがネットを駆け巡りました。
「オイシイメシのタネ発見!ラッキー」と狂喜した、webライターの私は急きょNASAのHPに急行しました。すると、NASAから次のようなコメントが発表されていました。
我々はこの研究に関わっておらず、この発見について直接コメントすることはできないが、この論文は科学的に信頼できる査読プロセスを経たものであり、論文の発表後に巻き起こるであろうケンケンガクガクの議論を楽しみにしている(筆者意訳)
https://www.nasa.gov/feature/announcement-about-research-on-venuss-chemistry
どうやらガセではなさそうです。では、ネタ元はどこか?
さっそく私はネタ元のリサーチに取り掛かり、それがイギリス・カーディフ大学のプレスリリースであることを突き止めました。
今回は、このカーディフ大学のプレスリリースを中心に、NASAの金星における生命探査の最新情報等をまるっと解りやすく解説します!
なお、論文は、14日付で「Nature Astronomy」に掲載されました。
まず、一番、気になるのはここですよね!キーワードは「ホスフィン」です。
ホスフィン(PH3)は水素とリンの化合物です。地球では、産業的につくられる他は、微生物によってつくられるだけです。
で、カーディフ大学のグリーブス教授率いる国際共同研究グループはこのホスフィンが金星の雲の中に存在することを発見しました。
まず、研究グループは、ハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を使って金星の雲の中にホスフィンが存在することを発見し、さらにチリのアルマ望遠鏡を使ってこのことを確認しました。
ホスフィンは、主に生命によってつくられ、大気中の化学反応等その他の原因によってはほとんどつくられません。そのため生命が存在する兆候の1つと考えられています。
とはいえ、生命活動以外にもホスフィンがつくられる原因はいろいろと考えられることは考えられます。
そこで、研究グループは、太陽光、火山、雷、地表面から吹き上げられる鉱物等さまざまな原因についてホスフィンがつくられる量を検討しました。すると、いずれの原因も観測されたホスフィンの量の1万分の1程度の量しかホスフィンをつくることができないことが解りました。
これに対して、研究グループによれば、地球の微生物なら10%程度稼働するだけで観測されたホスフィンの量をつくることができるそうです。ただ、金星は、非常に酸性度が高いので、仮に微生物がいるとしても、地球の微生物とはかなり異なったものになるのではないかと研究グループでは考えています。
何か金星に生命が存在するような雰囲気がただよってきましたね。しかし、話はそう簡単ではありません。
研究グループによれば、以上のことから、直ちに金星に微生物が存在すると言い切ることはできないそうです。なぜならまだまだ解っていないことが多いからです。
例えば、金星の地表温度は460℃にもなりますが、雲の中は比較的温暖でせいぜい30℃ほどしかありません。しかし、その代りに、酸性度が非常に高く、その約90%は硫酸でできています。そのような環境下で微生物がどのようにして身を守り生き残っているのか解明する必要があります。
研究クループは、これからさらに望遠鏡による観測を続け、ホスフィンが雲の中のどの部分に存在するのか、また、他にも生命の兆候と考えられているガスが存在しないか等研究を進めていくそうです。
現在、金星の表面温度は鉛なら溶けてしまう460℃、気圧は90気圧、硫酸の雲に覆われ、硫酸の雨が降っています。地獄ですね。まさに地獄です!
しかし、太古の金星には浅い海があり地球のような温暖な気候であった可能性があることが、NASAのコンピューター・モデルを使った複数の研究によって指摘されています(by CNN)。
では、それらのNASAの研究のなかから、2019年に発表された最新の研究成果について少し詳しくお話しましょう(by CNN)
研究グループは、現在の金星の地形に基づいて、浅い海がある場合、深い海がある場合、水が土壌に含まれている場合、現在の地球の地形に基づいて深い海がある場合、海洋惑星の場合の5つパターンを想定してシミュレーションをおこない、それぞれを比較検討しました。すると、すべてのパターンにおいて金星は少なくても30億年に渡って地球と同じような温暖な気候とその表面に液体の水を維持できることが解りました。
研究グループによれば、その理由は、金星は地球よりも太陽の近くにありますが、嵐の雲が強烈な太陽光線を遮るためだそうです。
ただ、今から7億から7億5000万年ほど前に、謎の大事件が起こり、大量の二酸化炭素が地殻から放出された結果、暴走的な温暖化がおこり、金星は現在のような姿になってしまったそうです。
その謎の大事件については、まだはっきりとしたことは解っていませんが、おそらく火山活動が関係しているのではないかと研究グループでは考えています。
もし、太古の金星は、地球のような温暖な気候で、浅い海があり、その状態が数十億年以上も続いたのなら、生命が誕生していたかもしれませんね。そして、その生命が、その後の環境の激変に適応し、今も生き残っている可能性もないとは言い切れません。
いゃ~夢が広がりますね!
では、今後の金星における生命探査の計画はどうなっているのでしょうか?気になりますよね!
この点について、NASAのコメントをみてみましよう!
NASAのディスカバリー計画における次の4つの候補のうちの2つは金星に関するものであり、そのうちの1つは、ヨーロッパ主導のもので、NASAはパートナーにとどまる(筆者意訳)。
https://www.nasa.gov/feature/announcement-about-research-on-venuss-chemistry
ディスカバリー計画とは、NASAが推進する比較的低予算で開発期間も短い宇宙探査計画のことです。
では、その2つの候補となる計画をみてみましょう。
ダビンチ+計画は、金星の大気を詳しく調べ、金星の大気の形成と進化、そして、かつて金星に海があったかどうか等を探査します。
ベリタス計画は金星の地形や地質を詳しく調べ、金星の地質的な歴史を解き明かし、現在、金星にプレートテクトニクスや火山活動が存在するかどうか等を探査します。
今回の発見を受け、ダビンチ+計画が採用される可能性が高まりました。もしかしたら、予定にはなかった生命探査のための観測機器を新たに積み込むことになるかもしれません。
やはり、直接、行って調べるのが一番ですよね。とにかく楽しみです!
これまで地球外生命探査は火星を中心に進められてきました。しかし、ここにきて、突然、金星という穴馬が登場しました。
はたして穴馬がくるのでしょうか?もし金星で生命が発見されたらと考えると、ワクワクして夜も眠れません!