毎年、この時期はwebライター界の稼ぎ時になります。なぜか?そう、ノーベル賞が発表されるからです。ジャジャーン!
というわけで、さっそく今年のノーベル物理学賞の話に入りましょう!
今年のノーベル物理学賞は、10月6日に発表され、ブラックホールの研究について、ロジャー・ペンローズ氏、ライハルト・ゲンゼル氏、アンドレア・ゲズ氏の3人に贈られました。(by ノーベル財団)
なかでもゲズ氏は4人目の女性ノーベル物理学賞受賞者という快挙になりました。翌日に発表されたノーベル化学賞も女性が受賞したので、今年のノーベル賞はまさに女性受賞者の当たり年と言った感じです。
では、簡単ながら受賞者3人のプロフィールを紹介し終えたところで、いよいよ受賞につながったそれぞれの研究業績について、それぞれの大学やノーベル財団のプレスリリースをもとにまるっと解りやすく解説します!
では、ペンローズ氏からみていくことにしましょう!(by OXFORD University)
まず、最初にブラックホールの構造について簡単に説明しておきます。キーワードは「事象の地平線」と「特異点」です。
ブラックホールはとても強い重力を持っています。そのため、近づきすぎると、光でさえも吸い込まれて出てくることができなくなります。このように光でさえも出てくることができなくなる境界線が事象の地平線です。この境界線よりも内側がブラックホールということになります。
続いては、特異点です。
恒星が死を迎えると、自分自身の重さに耐えきれなくなって、恒星全体がその中心に向かって縮み始めます。これを重力崩壊といいます。
特に、太陽の30倍以上の質量を持った恒星では、そのあまりの質量の大きさに、この重力崩壊が止まらなくなり、無限に重力崩壊し続けます。このように重力崩壊し続けていく中心点が特異点です。
この特異点がブラックホールの中心になります。
特異点ではエネルギー密度や時空の歪みが無限大になります。つまり、特異点ではこれまで知られてきた全ての自然法則が通じなくなります。常識がまるで通用しない特異な点なので特異点というわけです。
以上からブラックホールの構造をごく簡単にまとめると特異点を中心とした事象の地平線の球といった感じになります。
ブラックホールは、1960年代前半頃まで、特殊な条件を付けることによって、アインシュタインの一般相対性理論から理論的に予測されてはきましたが、現実に存在するとはほとんどの研究者は思っていませんでした。一般相対性理論の生みの親であるアインシュタインでさえも現実にブラックホールが存在するとは考えていませんでした。
しかし、アインシュタインの死から10年後の1965年に、ペンローズ氏は、一般相対性理論から、独創的な数学的アプローチによって、特殊な条件を付けなくても、重力崩壊によって、現実に、特異点、すなわち、ブラックホールが形成されうることを数学的に証明しました。
これが今回のノーベル賞の受賞につながった研究業績です。
この業績は、現在でも、一般相対性理論に対するもっとも重要な貢献の1つに数えられています。
で、最後にペンローズ氏は今回のノーベル賞の受賞について次のようにコメントしています。
このような賞をいただき大変光栄に思います。1964年にはブラックホールの存在はその重要性を正当に評価されていませんでした。しかし、それ以来、ブラックホールの存在は私達の宇宙への理解においてその重要性を増し続けてきました。そして、これからも未来における予想もつかない仕方で増し続けていくであろうと信じています。(筆者意訳)
https://www.ox.ac.uk/news/2020-10-06-oxford-mathematician-roger-penrose-jointly-wins-nobel-prize-physics
続いては、ゲンゼル&ゲズ氏です。(by California University)
みなさんは天の川銀河の画像を見て、恒星達が天の川銀河の中心にある何かの周りを回っているような印象を受けたことはありませんか?
実は、その印象は正しく、天の川銀河の中心には、いて座A*と呼ばれる超巨大なブラックホールがあり、天の川銀河の恒星達はその周りを回っていると考えられています。さらに現在ではほとんどの銀河の中心には超巨大なブラックホールが存在すると考えられています。
天の川銀河の中心部は星間ガスや星間塵等の星間物質にさえぎられて地球からの観測が非常に難しいのですが、ゲンゼル&ゲズ氏は、世界最大級の望遠鏡を使い、天の川銀河の中心部を観測するための技術を開発・発展させ、天の川銀河の中心部における恒星の動きを長年に渡って詳しく観測しました。
すると、それらの恒星が、観測不能ですが、とても小さく重い天体、すなわち、超巨大なブラックホールの周りを回っていることがわかったというわけです。
その超巨大なブラックホール、いて座A*は私達の太陽の400万倍の質量を持っていると考えられています。通常のブラックホールの質量が私達の太陽の10倍程度と考えられていることと比べると、その巨大さがよくわかりますよね。
ゲンゼル&ゲズ氏は、それぞれ別の研究チームを率いていますが、この業績によって、共同で今年のノーベル物理学賞の受賞となりました。
以上をまとめると、ペンローズ氏がアインシュタインの一般相対性理論からブラックホールの存在の可能性を数学的に証明し、ゲンゼル&ゲズ氏が天の川銀河の中心部の観測からその存在を実際に確認したという流れになります。
で、最後に、ゲズ氏は、4人目の女性ノーベル物理学賞受賞者という快挙を成し遂げたわけですが、今回の受賞について次のようにコメントしています。
この分野(科学分野)の他の若い女性研究者達を勇気づけられたらと思っています。この分野はとてもやりがいがあり、熱心に取り組むならば、多くのことを成し遂げることができるでしょう。(筆者意訳)
https://edition.cnn.com/2020/10/06/world/nobel-prize-2020-winner-physics-scn-intl/index.html
残念ながら、今年、日本人ノーベル賞受賞者はでませんでした。
しかし、国立天文台等が参加する国際共同研究チームが2019年にM87楕円銀河の中心にある超巨大なブラックホールの直接撮影に成功しました。そして、現在、その時、同時に観測した天の川銀河の中心にある超巨大なブラックホール、いて座A*のデータも、鋭意、解析中です。
私はこちらもノーベル賞を狙える研究業績だと思っています。おそらく、そのうち・・・。
まだまだノーベル賞から目が離せませんね!