若年層の死因1位自殺…について、では他の国の死因は?

27日に政府が閣議決定した「自殺対策白書」内の統計について、注目が集まっています。

27日に政府が閣議決定した令和2年版自殺対策白書では、昨年の自殺者数は前年より671人少ない2万169人で、全世代的に減少する中、10代が唯一、前年より増加した。15~39歳の各年代の死因は自殺が最も多く、先進国では日本だけにみられる事態として、厚生労働省は「国際的にも深刻な状況」と危機感を抱く。コロナ禍の今夏には中高生の自殺が増えており、心理的な孤立化を防ぐ取り組みが求められる。

https://www.sankei.com/life/news/201028/lif2010280004-n1.html

このニュースに対し、多くの人がツイートを行い、現在twitterのランキング入もしていますが、しかしこのニュース、少し気になる点があります。

「若者の自殺」それ自体は大変に痛ましいものです。コロナ禍で10代の自殺が前年より増加したこと、これにも強い対策が必要です。

しかし、自殺以外が死因1位になる……これも問題ではないでしょうか。
「先進国では日本だけに見られる事態」とありますが、では他の先進国ではどのような事態なのか。見てみましょう。

先進国の若者:死因1位は「事故」

多くの先進国では「事故」で若者が死んでいます。
令和元年の「自殺対策白書」をみてみましょう。
15歳~34歳死因の上位3位がそれぞれ書かれています。
(データは国名の下にかかれた年にとられた記録なので、少し古いです)

とりわけ目立つのはアメリカの「事故死」率ですね…
日本の自殺率の倍以上、アメリカでは事故で死ぬ若者が多い事がわかります。

なお、これでも自動車の安全システムが改良されたことで、多少減ったようです。それでも20-24歳の死亡者のうち、45%が事故を死因としています。
そして自殺率は年々高くなってしまっているとの報告が、2018年に寄せられています。

逆に日本の「事故死」率は大変低いです。リストに乗っている先進国の中では一番低いですね。
単純に若者が車やバイクに乗らない、というのもあるでしょうが、
交通整備や違反の厳罰化、飲酒運転の取締等、こういった策が功を奏しているとも言えるでしょう。

日本の若者の自殺率が高いのも「確か」

そして、本題です。
日本の若者の自殺率。これが高いのも確かな数字として出ています。

できれば「事故や病気で死ぬ率が低いので、自殺が1位になっているだけ」だったら良かったのですが、現実問題として各国より自殺率が高いことは事実です。
(なお先程の表は2015年のものなので、今は多少マシになっていますが、それでも他の国より悪い数値です)

なぜそのような事態になっているのか、
「これです」と提示できればいいのですが、そんな簡単な問題でもないため、1つの理由を打ち出すことは出来ません。
ただ、海外の記事を見ていて気になった点があったので参照します。

自分の個性より「受容や適合」を重視する

アメリカのウィキペディアには「日本人の自殺」という項目があります。
その中では「日本人は自殺に対する忌避感が少なく、寛容ですらある」と書かれています。
ハラキリや特攻隊等の文化も書かれていますが、若者が共鳴するかどうかは未知数なので…少し納得が難しいかもしれません。

しかし下記の項目は皆さん同意されるのではないでしょうか。

Cultural tolerance of suicide in Japan may also be explained by the concept of amae, or the need to be dependent on and accepted by others. For the Japanese, acceptance and conformity are valued above one’s individuality.As a result of this perspective, one’s worth is associated with how one is perceived by others.Ultimately, this can lead to fragile self-concept and an increased likelihood of considering dying by suicide when one feels alienated.

https://en.wikipedia.org/wiki/Suicide_in_Japan

日本における自殺に対する文化的寛容さは、「他者に依存し、受け入れられるかどうかが重要」といった価値観からも説明できる。
その価値観の結果、自分の価値は他人からどう思われるかを重視しており、自己概念が脆弱になり、疎外感を感じたときに自殺を考える可能性が高くなる。

「みんなと仲がいいこと」や「慕われること」「意見が合うこと」が「善いこと」とされ、
「自分を誇ること」、「他人と意見が対立すること」「孤立すること」がひどくネガティブな行動に捉えられる……そのような傾向に心当たりがあるのではないでしょうか。

もちろん他国にも大なり小なり同じ傾向はあるでしょうし、他国の若者も同じことで悩むでしょう。
しかし日本は特にその傾向が強いというデータがあります。

平成26年版の「子ども・若者白書」(内閣府)には、各国の子どもたちに対して「自分自身に満足している」かどうかを訪ねた結果がでています。

日本人の若者は「自分自身に満足している」と堪えた率が45.8%と、他先進国を大きく下回りました。

他にも「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」「つまらない、やる気がでないと感じたこと」といった問がいくつかなされていますが、ほぼすべての結果がネガティブな方に飛び抜けています……

問題に対して犯人探しではなく「どうやったらよくなるか」を考えよう

冒頭でtwitterのトレンドに「死因1位」が入った、とのことをお伝えしましたが、
残念ながら触れているツイートの中では「○○が悪いから」といった点が多く散見されました。

先程の英語版ウィキペディアの続きにはこうあります。

Overall, modern public concern about Japan’s increasing suicide rate has tended to focus on suicide as a social issue rather than a public health concern. The distinction here is that Japanese culture emphasizes maladjustment into society and social factors as playing a larger role in an individual’s decision to commit suicide than an individual psychopathology that is biological in nature. Furthermore, stigma surrounding mental health care still exists in Japan. Thus, there has been more emphasis on reforming social programs that contribute to economic stability (i.e. welfare) rather than creating specific mental health services.

https://en.wikipedia.org/wiki/Suicide_in_Japan

全体的に、日本の自殺率の増加に対する現代の社会的な懸念は、公衆衛生上の懸念というよりは、社会的な問題としての自殺に焦点を当てる傾向がある。
ここでの区別は、日本の文化が、生物学的な性質を持つ個人の精神病理よりも、社会への不適応や社会的要因が個人の自殺の決断に大きな役割を果たしていることを強調しているということである。
さらに、日本では、メンタルヘルスケアを取り巻くスティグマが未だに存在している。そのため、特定のメンタルヘルスサービスの創出よりも、経済的安定に寄与する社会プログラム(=福祉)の改革が重視されるようになった。

残念ながら人間は「病む」生き物です。
これは体が病気になる人が出るのと同じように、心を病む人がいる、という当たり前のことです。
しかし日本で自殺の話が出る場合、もっぱら焦点は「社会制度」に当たっていることが多いのではないでしょうか。

この問題を語る際「誰かが間違ったことをしていて、そのせいで若者が自殺する」という意見の傾向がみられます。これは自殺以外でも多くの社会問題でそのような傾向が見られます。

ですがそのような見方自体が、あまりよくない傾向かもしれません。
「みんなが適切な行動をすれば悪いことは起きないはずだ」という考え方は、「適切な行動が出来ない人」を苦しめます。
「○○が悪い」という意見にあふれた社会は、まさに「受け入れられなければいけない」といった感情を加速させてしまいます。

それよりも「今はこういった点が改善できている。もっとこうすればよくなるかもしれない。みんなでこうしよう」といった意見のほうが、よほど建設的な意見でしょう。
しかし残念ながら、こういったポジティブな意見は現状あまり見られません。
(この文章自体が”犯人探しでは”となっていたらすいません)

ですのでこういった形で記事を締めようと思います。
「日本は交通整備や医療制度の進化により、他国よりも若者の事故死や病死は低い水準になっています。
あとは若者の自己肯定感を高めるには、何をすることができるか考えましょう」

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  • 日本は若者の自殺の多い不幸な国という意見の多い中、まともな分析の出来ている素晴らしい記事ですね。
    殺人事件で亡くなる人の多い国に比べて、死にたくないという気持ちが薄くなりがちです。
    幸せ病ですね。
    多くの記事がこのデータに同調して、日本に批判的ですが、自殺は自分の選択。
    他殺は事故の意思に反して、生きたくても生きられない事態です。
    おっしゃる通り、病気や事故で死ぬ人が少なければ、自殺の割合は増えるんです。
    最も大事なのは、若者の死に直面する割合です。
    日本は人口当たり最低な幸せな国ですよ。

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