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これからの日本のIT社会が見えてきたムーンショット目標とは?

IcT(Information and Communication Tecnology)情報にアンテナを張っている方には既に理解されている方も多いのかもしれませんが、この聞き慣れないムーンショット目標とは一体何なのでしょうか?これを今回の記事では紐解いて参りたいと思います。

ムーンショット目標とは?

先ずは、このムーンショット目標とは何かから解説致します。

このムーンショット目標とは、【2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現】する為の目標という事になります。この目標の資料は我が国の内閣府が2019年12月18日の資料として全文が英語でMoonshot International Symposiumとしてまとめられています。

https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/mspaper3.pdf

目を通して頂くとお分かりになるは思いますが、この英語資料では分かり難いので、日本人向けに文部科学省が今年の2月にまとめた資料を見ると理解し易くなっています。但し、92ページ~103ページまでの抜粋資料なので、ザッと見て理解するためのものです。

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/concept1.pdf

私は英文の方を全文和訳しながら読破したので分かりますが、この抜粋資料は英文の要約資料であることが分かります。

何故ムーンショットという名前なのかですが、ムーンショットとは英語に於ける月ロケット発射目標という意味になるのですが、言わんとすることは、つまり【壮大な目標】くらいの意味合いとなります。そして、これは1961年5月、アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディが、1960年代中に人間を月に到達させるとの声明を発表した事に由来しています。

予算規模について

ムーンショット型研究開発制度の概要資料によると、

平成30年度補正予算で1,000億円を計上、基金を造成。令和元年度補正予算で 150億円を計上。最長で10年間支援。

ムーンショット型研究開発制度の概要

サイバネティック・アバター?

我が国のムーンショット目標は、先に示しておいたように【2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現】なので、目指している社会は、『誰もが多様な社会活動に参加できるサイバネティック・アバター基盤』というのが一つあります。

サイバネティックとは何かというと、サイバネティックスが人工頭脳学というノーバート・ウィーナーによって提唱された通信工学と制御工学を融合し、生理学、機械工学、システム工学を統一的に扱うことを意図して作られた学問のことになります。

「一体それは何のこっちゃ?」と思う人もいるかもしれないので、もう少し分かり易くしますと、サイバネティックのサイバーとはサイボーグ(人造人間)のサイバーと同じです。

サイボーグは昔の漫画の『サイボーグ009』なんかが有名ですが、要はサイバーと言われたら人造人間のような世界を想像すると分かり易いです。しかもサイバーはサイバースペースで電脳空間を示す言葉としても理解されていると思います。要はインターネット空間で行われる何かであることは明確になったと思います。

そしてアバターというまたもう一つの専門用語が出てきましたが、これは映画『アバター』や『マトリックス』などを見た方なら分かると思いますが、自分と同じ役割を持った化身(けしん)を操作することによって行動するのがアバターの役割です。

そのサイバネティック・アバターという用語から分かることは、インターネットを利用した恐らくはバーチャルリアリティ空間の中で複数のアバターを操作できるようにする計画が2030年までの目標です。現在2020年ですが、あとたったの10年でアバターを1人当たり10体以上も操作できる技術を構築すると言っているのです。更に2040年で100体、2050年で1000体をも一人で操作する体系が構築される予測が掲載されています。

もちろんそんな技術はまだこの世界には存在しませんが、その先駆けとなっている技術は他でもないAI(Artificial Intelligence=人工知能)技術、そしてVR(Virtual Reality=仮想現実)技術もしくはAR(Augmented Reality=拡張現実)技術であると言えます。しかし、実際に働くアバター自体は仮想のアバターか現実のアバターかは明言されていませんが、サイバネティックと言っている以上は身体能力の解放を実現するのであれば、やはりロボットとしてのAIがアバターとして動ける操作者に成れることを言っているのだと想像します。

そんなの無理じゃないの?って思う人が多数いるのは大いに予測できますが、安倍内閣が終了して菅内閣が始まった時に菅首相が提唱したデジタル庁の創設は、他でもないこの内閣府が打ち出したムーンショット目標とも無関係ではない筈です。

しかもこのムーンショット目標は世界的な目標の一つに過ぎないのです。

国連のSDGsが日本政府の打ち出した目標の鍵を握っている

SDGsの17のターゲットを示すアイコン

https://www.unic.or.jp/files/SDG_Guidelines_AUG_2019_Final_ja.pdf

今度は管轄が外務省へ移ります。政府の目標についてご存知ならば理解されている方もいると思いますが、SDGs(Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標)というものをエスディージーズと呼んでいます。これは国連が2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことなのです。

SDGsには17のゴールと169のターゲットが示されています。しかも地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。

  • 目標1 貧困をなくそう
  • 目標2 飢餓をゼロに
  • 目標3 すべての人に健康と福祉を
  • 目標4 質の高い教育をみんなに
  • 目標5 ジェンダー平等を実現しよう
  • 目標6 安全な水とトイレを世界中に
  • 目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 目標8 働きがいも経済成長も
  • 目標9 産業と技術革新の基盤を作ろう
  • 目標10 人や国の不平等をなくそう
  • 目標11 住み続けられるまちづくりを
  • 目標12 つくる責任つかう責任
  • 目標13 気候変動に具体的な対策を
  • 目標14 海の豊かさを守ろう
  • 目標15 陸の豊かさも守ろう
  • 目標16 平和と公正をすべての人に
  • 目標17 パートナーシップで目標を達成しよう

https://www.unicef.or.jp/sdgs/

こちらのリンク先には17のゴールにぶら下がる169のターゲットを一覧することができます。

https://www.unicef.or.jp/sdgs/target.html

国連主導の取り組みに日本政府も先進国として取り組んで行くことを既に示しているので、それを実行する上でムーンショット目標がシンポジウムとしてまとめられたと理解するのが筋道であると言えます。

適当に決めた目標ではなくて世界の中の先進国としての日本の役割としてムーンショット目標がまとめられているところが見逃せないと思います。外務省がまとめたSDGsのこの資料の中にはムーンショット目標に関する項目は入っていませんが、SDGsの中で日本が果たす役割はこちらのPDFをご覧ください。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_gaiyou_202009.pdf

更に【Society 5.0】がムーンショット目標の鍵を握っている

こちらの資料の中にあるムーンショットに繋がる目標は【Society 5.0】というものです。

このSociety 5.0とは何なのかについて知ることがムーンショット目標を理解する上で必須な項目となってきます。

https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

こちらも内閣府がまとめたSociety 5.0の資料になりますが、こちらにもムーンショット目標にも見られるサイバー空間という文字が見られます。

Society 5.0の定義ですが、【サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)】

ということが言われています。

何故5.0かというと、それまでの社会は1.0から4.0までであったということになっているのです。

現在までは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)という形になっているのです。

現在はまさにSociety 4.0の情報社会になったということです。

Society 5.0では、「IoTで全ての人とモノがつながり、新たな価値が生まれる社会」、「イノベーションにより、様々なニーズに対応できる社会」、「AIにより、必要な情報が必要な時に提供される社会」、「ロボットや自動走行車などの技術で、人の可能性が広がる社会」という4つが中心に掲げられています。

Society 4.0とSociety 5.0の大きな差は、4.0では全ての作業は人間が操作していたものが、5.0では全てオートマチックでAIやロボットが自律的に動いているところです。

この差を実現する社会がSociety 5.0になります。

先に示しておいたSDGsの項目の中では、2030年までにこのSociety 5.0を実現できるように目標が立てられています。

その日本が掲げたSDGsの中心となる三本柱として

1.ビジネスとイノベーション ~SDGsと連動する「Society5.0」の推進~

2.SDGsを原動力とした地方創生,強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり

3.SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメント

が掲げられています。

ムーンショット目標の7つの研究開発目標

ここまでにおいて、やっとムーンショット目標へ繋がる大前提であったSDGsSociety 5.0の2つをご紹介できましたので、その先にあるムーンショットの7つの目標をご紹介します。

研究開発プロジェクト

目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現

【誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・ アバター基盤】

・2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

・2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

【サイバネティック・アバター生活】 

・2050年までに、望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術 を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を 普及させる。

・2030年までに、望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案する。

ムーンショット型研究開発制度の概要

●サイバネティック・アバターはロボットとAIが結びついた上での省力化と自動化を一度に実現できるテクノロジーとなる開発目標です。

この目標1の開発自体は、時間と空間の制約を解放する為に、かなり目標6の量子コンピューターの進化に依存する目標であるように個人的には見ております。何故ならば、これらの根幹技術であるコンピューター計算がそもそも現代程度の処理速度のままであったと想定すると、サイバネティック・アバターなどの高度処理システム自体が稼働する下地が見えて来ないからです。しかもそれらはビッグデータで処理されなければならないということも忘れてはならない部分です。勿論、それらの技術への国家予算は多くの国でかなりの資金を投入されているので、進化自体が停止する心配はないと予測できます。

目標2 2050年までに、超早期疾患の予測と介入を実現し、より長く、より充実した、より幸せな人生を送っています。

・2050年までに、病気の予測と発症前の状態の評価のためのシステムを確立します。これは、人間の臓器間の機能ネットワーク全体の統合分析によって達成され、最終的には病気の抑制と予防を実現します。

・2050年までに、症状が出る前の状態から健康な状態への転換を可能にする戦略を確立します。臓器間の包括的なネットワークの観点から、ライフコースに沿った人間の生理機能の変化を明らかにします。

・2050年までに、分子標的を構成要素として含む疾患関連のネットワーク構造を特定し、革新的な予防、診断、および治療方法を確立します。
・臓器ネットワークなどを観察および操作するための、被験者に適用可能な非侵襲的手法の確立

・2030年までに、人の臓器間ネットワークを 包括的に解明する。

ムーンショット型研究開発制度の概要

●概要資料には、「世界初のWhole Body Network Atlas」というものが、この目標2の項目の中に見出されますが、これは「ヒトの全臓器間の包括的ネットワーク状態を捕捉し、ヒトの全臓器間のネットワークの状態を記述したデータベース(Whole Body Network Atlas)の構築及び、数理モデル等を活用した健康状態の不安定化を予見するためのシステム開発(シミュレータ)を目指します」と、

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/concept2.pdf

の資料には記されています。

という訳で、この目標2が目指している目標も基本的にはコンピューターによるデータベースを基本とした技術開発目標であることを踏まえた上で読む必要があります。

臓器間のネットワークに関するビッグデータを利用したものであることは確かに記述されていますが、データベースの目標からすれば、私達の身体をデータベースにリンクして健康状態の不安定な部分を早期発見して治療に役立てられるというのが筋書きであるように想定されます。その手前で、各臓器間のネットワークを解明するのが大きな目標と記述されています。

その意味では、この目標がIoT(Internet of Things)を利用したものであるのかどうかの詳細までの記述が見当たりませんが、それは寧ろ少し後から設けられた目標7に任された役割なのかもしれません。

目標3 2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

・2050年までに、人が違和感を持たない、人と同 等以上な身体能力をもち、人生に寄り添って 一緒に成長するAIロボットを開発する。

・2030年に一定のルールの下で一緒に行動して 90%以上の人が違和感を持たないAIロボットを開発する。

・2050年までに、自然科学の領域において、自ら 思考・行動し、自動的に科学的原理・解法の 発見を目指すAIロボットシステムを開発する。

・2030年までに特定の問題に対して自動的に 科学的原理・解法の発見を目指すAIロボットを開発する。

・2050年までに、人が活動することが難しい環境 で、自律的に判断し、自ら活動し成長する AIロボットを開発する。

・2030年までに、特定の状況において人の監督 の下で自律的に動作するAIロボットを開発する。

ムーンショット型研究開発制度の概要

●目標3の目指す人とロボットが共生する社会が目指すものは、目標1が掲げているサイバネティック・アバターのようなロボットではなくて、より社会と密着したAIロボットシステムを目指していることが分かります。

2050年までに、身体能力としては人間以上の能力があって、人間の生活に寄り添う形を実現し、自然科学の領域で自ら思考して行動もでき、科学的原理と解放までを発見するAIロボットも目指す、そして、人が活動するのが難しい環境で自律的に判断して活動し成長することもできる、つまりこれは人間のすることをそのまま完全に置き換えられる程に賢いロボットとなります。

それ以前に2030年までには、一定ルールの下で9割以上の人が違和感を持たずに、特定の問題に対し、自動的に科学的原理・解法の発見を目指し、特定の状況で人の監督下で自律的に動作できるAIロボットを開発することになるようです。

つまり、この特定のと限定されているのは、AIが現時点では弱いAI(専門分野のみ)の領域では完全に動けることを意味していて、2050年時点では強いAI(汎用分野)の領域において完全に対応できるAIロボットが完成することを意味しています。これはある意味、便利な道具を抜きにしたドラえもんが完成することに等しいです。

正にこの2050年の到達目標が達成されるとシンギュラリティ(技術的特異点=AIがそれを創り出した人間の能力を超えるポイント)が引き起こされることに等しいのです。

目標4 2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現

<ターゲット> 

地球環境再生のために、持続可能な資源循環の 実現による、地球温暖化問題の解決(Cool Earth)と 環境汚染問題の解決(Clean Earth)を目指す。 

Cool Earth & Clean Earth

 • 2050年までに、資源循環技術の商業規模の プラントや製品を世界的に普及させる。 

Cool Earth

 • 2030年までに、温室効果ガスに対する循環 技術を開発し、ライフサイクルアセスメント (LCA)の観点からも有効であることをパイロット規模で確認する。

Clean Earth

 • 2030年までに、環境汚染物質を有益な資源 に変換もしくは無害化する技術を開発し、 パイロット規模または試作品レベルで有効であ ることを確認する。

(参考:目指すべき未来像)

Cool Earth & Clean Earth の実現 

・2050年までに、大気中のCO2の直接 回収・資源転換や、プラスチックごみ の分解・無害化技術等を社会実装。 

ムーンショット型研究開発制度の概要

●目標4こそは地球環境に根差した項目です。

私たちが覚えておかなければならないのは、既に決定している京都議定書の後継に当たるパリ協定です。

ここでは2020年以降の気候変動問題に於ける国際的な枠組みで、世界共通の長期目標として、

◇世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする

◇そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

ということが言われています。

ところが、米国のトランプ大統領はこの国際協定であるパリ協定の脱退を表明したので、最速で今年2020年の11月4日以降に脱退が可能となるかもしれません。なかなか足並みが揃わないですね。

とはいえ、この様な世界の情勢を踏まえた上での日本独自での目標として目標4は建てられています。21世紀後半とは正に2050年のことであって、それに向けられた環境設定が、この目標4であると見据えると理解し易いと思います。環境問題は主にCO2排出量と地球温暖化が大きな問題とされています。

しかし、国連の主要国であるアメリカが脱退する裏には単なるトランプ氏の我儘だけとは言えない利権構造への反対なども問題視されています。

私たちはクールアースやクリーンアースというスローガンを何も疑わずに良いことであると信じてはいますが、これらが実現されるのが良いのか悪いのかというのは常に自分の問題として捉える自覚が必要なのではないかと私は思います。

もし一見クリーンな地球が利権によって社会的に汚染されていたとしたら、見掛けがキレイでも、それは実現されたことにはなりません。そういう視点も持った上で世界情勢を見る癖を付けないと、言われるがままに何でも従う奴隷となってしまいます。

そうは言っても、じゃあ世界の公害をこのまま放置して良いのか?という視点でも捉え直すことがとても大事です。

世界の公害は、科学の発展と同時にそれらは大きくなってきました。これらを何かしらの形で包括的に解決していかなければ、私達はこの地球では住めなくなってしまいます。

私達の世界は、年々異常気象が強くなってきています。これらの根底に何があるのかを探る必要があります。

先ず公害の石油由来の有害なガスなどは誰が見ても減らさなければならないものです。そしてプラスティックもそうです。これは土に自然に還らない化学物質です。海も当然汚染します。こういうものが全体でどの様に生産されて排出されて、それらがきちんと回収されるのか。それらが数値目標としてきちんと定められているところには注目しておく必要があるでしょう。

目標5 2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出

<ターゲット> 

・2050年までに、微生物や昆虫等の生物機能をフル活用し、完全資源循環型の食料生産システムを開発する。

・2050年までに、食料のムダを無くし、健康・環境 に配慮した合理的な食料消費を促す解決法を 開発する。

・2030年までに、上記システムのプロトタイプを開発・実証するとともに、倫理的・法的・社会的 (ELSI)な議論を並行的に進めることにより、 2050年までにグローバルに普及させる。 

ムーンショット型研究開発制度の概要

●こちらは世界の食糧問題についての目標が組み立てられています。2030年までに、2050年までに完成するシステムのプロトタイプを開発・実証すると共にELSIの議論を並行的に進めるとなっています。このELSI(エルシー)とは、Ethical, Legal and Social Implications(倫理的・法的・社会的な課題)となります。

このELCIはこの分野だけでなく、医療を始め、他の様々な分野で使われる用語でもあります。結局は何を推進する上でも、このELCIが上手く進められないと完成されないということでもあります。

この目標5では、2050年までに微生物や昆虫等の生物機能をフル活用すると言っています。微生物や昆虫食は生理的に受け付けない人達がいますが、実際には豊富なタンパク源として元々研究されているのです。これらはバイオテクノロジーとも直結する分野であると言えます。

更に食糧のムリ・ムダを減らすためにAIを利用した土壌の制御や、生物のエネルギーをフル活用して完全資源循環型の食糧生産システムを開発すると言われていますが、ここにはブルーカーボンという文字を循環システムの中に見出す事ができます。

これはグリーンカーボンと呼ばれる森林等で蓄積される炭素に対する言葉として表される、海洋からの地球上の生物により固定される炭素のうち55%がブルーカーボンと言われているそうです。

目標6 2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現

・2030年までに、一定の規模のNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)コンピュータの開発、および量子エラー訂正の有効性の実証。

・2040年までに、分散NISQコンピュータのデモンストレーションおよび量子エラー修正の下での有用なタスクの計算。

・2050年までに、大規模/フォールトトレランスの実現。

ムーンショット型研究開発制度の概要

●この目標6は、量子コンピューターに於ける開発目標が示されています。

量子コンピューターには、量子ビットと呼ばれるビット計算によって物凄い数の計算を瞬時に実現しているのですが、そのデメリットとしてNISC(つまり、ノイズあり中規模量子デバイス)と呼ばれる量子エラー訂正がまだ不十分なので、それを2030年までに実現しようということが最初に書かれています。

これが実現することは実は物凄いことで、量子コンピューターのQビット(量子ビット)を高度に高められる予測が立つというメリットが挙げられます。現段階ではその予測がまだ立っていません。

次の2040年までの段階では、分散処理型NISQコンピューターの実証に向けての開発と、量子エラー訂正の下でできるだけ有用なタスク処理を実現するという大きな目標があります。これらが伸びないと量子コンピューターの利用意義自体が問われます。特に量子エラー訂正については大きなブレイクスルー技術が世界的に求められています。

最終段階の2050年に向けては、これらが実現した上での大規模システムの設計と、量子回路最適化・検証を行うツール「コンパイラ」の開発、そして量子ピットの測定データを量子及び、古典の情報処理系への送信の高速化・大容量化の実現までが求められています。

何気にこの目標6の開発が進まないと、このムーンショット目標全体の進行もまた遅れを来たすという重要技術となっています。ムーアの法則と呼ばれる右肩上がりの現代のCPU(大規模集積回路)の集積にも限界が見えている現在、その先には量子コンピューターの実現が必須とも言えます。何故ならば、現代ではビッグデータ解析を主に古典的なスパコンでしか実現できていないからです。

これらが発展することによって初めてAIによる超高速なビッグデータ解析が実現されて、量子コンピューターに任せておけば、世界中の殆どの高速処理はほぼ解決というところまで道のりがやっと見えてくるという話なのです。

目標7 2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサスティナブルな医療・介護システムを実現

<ターゲット>

【日常生活の中で自然と予防ができる社会の実現】 

・2040年までに、免疫システムや睡眠の制御等により健康を維持し疾患の発症・重症化を予防するための技術や、日常生活の場面で個人の 心身の状態を可視化・予測し、各人に最適な健康維持の行動を自発 的に促す技術を開発することで、心身共に健康を維持できる社会基盤 を構築する。

・2030年までに、全ての生体トレンドを低負荷で把握・管理できる技術を 開発する。

【世界中のどこにいても必要な医療にアクセスできるメディカルネット ワークの実現】 

・2040年までに、簡便な検査や治療を家庭等で行うための診断・治療機器や、一部の慢性疾患の診断・治療フリー技術等を開発することで、地域に関わらず、また災害時や緊急時でも平時と同等の医療が提供されるメディカルネットワークを構築する。また、データサイエンスや評価系の構築等により医薬品・医療機器等の開発期間を大幅に短縮し、がんや認知症といった疾患の抜本的な治療法や早期介入手法を開発する。

・2030年までに、小型・迅速・高感度な診断・治療機器や、医師の医学的所見・診断能力をさらに引き上げる技術等を開発し、個人の状況に あった質の高い医療・介護を少ない担い手でも適切に提供できる技術 基盤を構築する。

・2040年までに、負荷を感じないリハビリ等で身体機能を回復させる技術、不調となった生体制御システムを正常化する技術、機能が衰えた 臓器を再生・代替する技術等を開発することで、介護に依存せず在宅 で自立的な生活を可能とする社会基盤を構築する。

 ・2030年までに、負荷を低減したリハビリ等で身体機能の改善や在宅で の自立的生活をサポートする技術、不調となった生体制御システムを 改善する技術を開発する。 

ムーンショット型研究開発制度の概要

●この目標7で掲げられているターゲットが目標2の医療が目指しているものとの大きな違いは、こちらはあくまでも100歳まで人生を楽しめる医療・介護システムの実現 が根本としてあるところです。

目標2は、医療そのものの精度を上げて治せない病気を無くすための目標と言えますが、こちらは医療・介護から見たQOL(クオリティ・オブ・ライフ=つまり生活レベルの向上)を上げることが最低目標として掲げられているので、生活習慣や老後に発症しがちな病気の克服と、病気になった時のホスピタリティ(相手を安心で幸福な気持ちにして最善を尽くすこと)を大切にする意味合いがとても大切にされるので、アプローチの違いを知って、老人介護などの視点から理解することが求められていると言えると思います。

以上の目標の詳細についてはこちらの概要資料にまとめられています。

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/gaiyo.pdf

これらの7つの目標にはそれぞれ一つずつのグループが設定されていて、独自の研究開発プロジェクトが率先して動いていくことになります。そのグループの詳細は次のリンクを参照してください。

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/project.html#a1

ここまで日本の未来を探って思ったこと

以上、かなり膨大な未来計画をたったあと30年で実現すべく国家が動いていること、そしてその根幹となるSociety 5.0をたったあと10年の2030年で構築しようとしていることに驚きを隠せない人も多いのではないでしょうか?

今年の9月にデジタル庁の創設という新たな計画を知らされて驚いた方もたくさんいらっしゃると思いますが、私が前回の記事でまとめておいたマイナンバーカードが、今後の日本の未来社会を変革していく大きな鍵となることもゆくゆく理解されるでしょう。

デジタル庁のお仕事は、マイナンバーカードにとどまらずSociety 5.0の実現とそれを総括するSDGsのコントロールと更にムーンショット目標という壮大な計画を実現するためにも一早く創設せねばならない省庁の一つであることも理解されたと思います。

安倍内閣が続けてきた経済政策は、次の2050年までのムーンショット目標を目指す上で築き上げてきた国際協調の姿勢の中で既に重要な位置付けとなっていて、これから交替した管内閣により世界の社会的な経済基盤を先進的な技術革新で実現すべき青写真として、既にいろいろ見えてきていることをお伝えする記事としてまとめました。

Published by
亀井太郎