アメリカの、そして世界の転換期ともいえるアメリカ大統領選が11月3日に行われます。
再選を狙い、コロナから復帰して最後の攻勢をかける共和党ドナルド・トランプ氏と、反トランプ派の期待を一身に背負う民主党ジョー・バイデン氏。
今回の大統領選は、「トランプ4年間の総決算」ともいえるもので、いわばトランプ大統領を信任するかどうかを決めるようなもの。これまでのところ選挙戦はバイデン有利で進んできましたが、現在はフロリダなど一部の激戦州で猛追をかけており、まだまだ選挙結果は見えてこないという所。
そんな中、今回は前回の白熱した候補者2人による最終討論会の結果等から、「もしバイデン氏が大統領になったら」というテーマで選挙戦を分析していきたいと思います。
日本時間の10月23日に開催された、第2回で最終となるアメリカ大統領選討論会では、
という主に6つのテーマについてトランプ大統領とバイデン氏が白熱した議論を行いました。お互いの罵詈雑言が飛び交い「史上最悪の討論会」とも呼ばれた第一回とは異なり、今回は建設的な議論が行われたのは評価すべきポイントでしょう。
6つのテーマに関して、互いの候補の主張は真っ向から対立することがほとんどで、両者の思想の異なりや、「これからのアメリカ」というビジョンの差も浮き彫りとなりました。今回はこれらテーマからいくつかピックアップしたバイデン氏の主張にフォーカスを当て、彼が大統領になった場合のアメリカの姿を予想していきたいと思います。
トランプ大統領は自身がコロナウイルスに感染してもツイッターで無事をアピールし、回復次第即集会を開くなど、良くも悪くも経済重視で楽観的な姿勢を貫くのに対し、バイデン氏はコロナウイルスに関して慎重な立場を取ります。
ビジネスよりも安全が最優先だと主張するバイデン氏は、「ソーシャルディスタンス」の重要性を指摘し、レストランの営業等でもアクリル板などで敷居を付けるべきだと主張します。
実際現在のアメリカは全世界でも最悪のコロナ感染国といわれており、感染者数は900万人を突破、死者数は20万人を超え、現在でも1日に10万人の新規感染者が生まれています。
(参照:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201031/k10012690011000.html)
この最悪の状態をもたらしたのはトランプ政権による「コロナ軽視」「経済重視」の政策によるもので、その責任を取るべきだというのもバイデン氏の主張です。
実際この部分に関してはバイデン氏に分があるので、コロナ対策ではバイデン氏が一歩リードといったところでしょうか。ただし、バイデン氏の主張もあくまで一般論的というか、優等生的な回答という印象はぬぐえないためあまりインパクトはありません。
バイデン氏が大統領になった場合は、現在の状況を改善するためコロナ対策を重視し、経済活動を少々抑え気味にすることはほぼ確実でしょう。以前ニューヨーク等で行われ、現在英首相がイングランドで発令しているようなロックダウンが再び発令されることも予想されます。
人種問題はアメリカが建国当初から抱えている大きな問題です。そもそも先住民から土地を奪い取った大陸入植、奴隷制の継続を主張した独立戦争、そして奴隷制の継続が主な争点となって多数の死者数を出したアメリカ南北戦争など、アメリカの初期の歴史は人種問題の歴史といってもよいほどのもので、現在でもそれは尾を引いて有色人種差別は続いています。
特に黒人差別やヒスパニック系の差別は現在でも大きな問題となっており、「国境付近の壁」建設問題や、トランプ政権に限った話ではありませんが警察官による黒人射殺問題など、大きな論争を巻き起こす問題も山積しています。
トランプ大統領は基本的に他民族には排他的な政策を取ることが多く、そういった政策は人種差別的だとリベラル派から批判も多く受けてきました。
バイデン氏は以前オバマ政権で副大統領を務めていたこともある人物で、トランプ氏に対抗し、黒人差別の制度的撤廃や、ヒスパニック等を含めた人種融和政策を打ち出しています。
では、実際にバイデン氏が大統領になればアメリカの人種差別はなくなるのでしょうか?
残念ながら、答えは確実にNOだと言えます。
そもそも、アメリカではトランプ大統領以前に黒人初の大統領であるオバマ大統領が誕生し、新時代の訪れを予感させました。オバマ大統領は精力的に人種差別撤廃のための発言を行い、意識面ではおおきな進展があったと言えますが、残念ながら彼の任期の8年間で制度面での決定的な進展があったと評価する人は少数です。
それほどアメリカにおける差別の問題は根深く、オバマ政権で無理だったものを当時の副大統領だったバイデン氏が達成可能とは到底思えません。ただ、バイデン氏が当選すれば、「壁の建設」の中止や、日常的な人種差別的ともとられかねない発言の減少によって、いったん差別問題が鳴りを潜める、といったことは予想されます。
中国は現在急速に発展を続ける経済大国で、今年5月にはGDPがアメリカを抜いて遂に世界一位に躍り出ました。そんな中国の特徴はなんといっても民主主義政権ではなく、人民代トップの習近平氏らによって支配される独裁政権だということです。
そんな中国は現在、アフリカやアジアの国々に援助の名目で支配の手を伸ばしており、アメリカを始めとするいわゆる西側諸国にとっては、無視できない大国でありながら、将来における脅威としても認識されています。
そんな中国との関係に関して、トランプ大統領は対立を深めており、非常に高い関税を互いの国の品に掛け合う「貿易戦争」も勃発し、「新冷戦」ともよばれる状態まで両国の関係は冷え込んでいました。
裏返せば、中国はここ数年で対等にアメリカと張り合うことができる力をつけたということでもありますが、その要因の一つにはオバマ政権による対中融和政策があるともいわれています。
では、バイデン氏がもし大統領になれば、副大統領だった頃のように対中関係に関して、関税を引き下げるといった融和政策をとっていくのでしょうか?
これに関しては意見が分かれる部分でもありますが、私自身はオバマ政権ほどの融和政策を取ることはないと予想します。
なぜなら、中国は現在経済以外にも5Gの導入による世界的なネットワークの掌握や、サイバー攻撃による知的財産・軍事機密の奪取など様々な活動を通して、支配を広げようと画策しており、その脅威は民主党・共和党を超えてある程度アメリカでの共通認識となりつつあるからです。
中国が強大な脅威となった現状、オバマ政権ほどの融和政策を取ることは共和党支持層からはもちろん、民主党支持層からの一定の反発が予想されるため、習近平氏とも関係を持ち、親中派と目されるバイデン氏でも大幅な方向転換は不可能とみるのが自然です。
もちろん、トランプ大統領ほど徹底的に「対中国」を意識した外交戦略を行うとは考えにくいうえ、民主党が環境問題や国際機関における他国との「協調」を重視している以上、大国中国との関係もある程度は改善するとみられています。
では、北朝鮮対策に関してはどうでしょうか?
トランプ大統領は北朝鮮について、国家主席である金正恩氏との3度にわたる対談を行うなど、積極的に融和政策を図ってきました。これは前政権のオバマ前大統領が北朝鮮に対する制裁等を強化してきたのとは対照的です。
これに関してトランプ氏は「良好な首脳関係を築いたことで、数百万人が犠牲になる核戦争を回避した」と述べ、自身の成果の一つであると強調しました。
これに対してバイデン氏は、トランプ氏の行動が金体制に国際的なお墨付きをを与える結果となっており、「トランプ政権下で北朝鮮がミサイル能力を向上」させ、むしろ北朝鮮の危険度が高まったのだと反論します。
つまり、バイデン氏が大統領に選ばれた場合は、オバマ政権同様、北朝鮮への制裁などの締め付けが強くなり、2国の関係は悪化していくと予想されます。
この2国の関係が悪化するということはアメリカに追従する日本と北朝鮮の関係が悪化することも示唆しており、核実験やミサイル発射などの北朝鮮の今後の動向に今以上に注意する必要が出てきます。
今回は、トランプ大統領とバイデン氏の最終討論の内容から、両者の主張を比較・分析し、「もしバイデン氏が大統領になったら」というテーマで考察を進めていきました。
「もしバイデン大統領が誕生したら」という結論を簡単にまとめると
といったように、「バイデン氏が大統領になったら」という予想をおこないました。全体的にトランプ大統領とオバマ前大統領の中間程度の政策がとられることが予想され、よく言えば「バランスが良い」、悪く言えば「インパクトにかける」といった政策といえるかもしれません。
もちろんこれはバイデン氏が大統領選に勝利した場合のシナリオであり、トランプ氏の猛追もありまだ大統領選の先行きは不透明です。アメリカの、そして全世界の今後に大きな影響を与えるアメリカ大統領選は日本時間10月3日夜から4日にかけて開催されます。ぜひ注目しておきましょう。