コラム

トランプ大統領もリツイートしたフェイクニュース:QAnon(Qアノン)とは?陰謀論の脅威

最初に:フェイクニュースって何?

フェイクニュースというと何を思い浮かべますか? 「フェイクニュース」は2017年の流行語大賞のトップテンに選ばれました。

授賞語:フェイクニュース
授賞者:清原 聖子 さん(明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授)

ネット上でいかにもニュース然として流布される嘘やでっち上げ。2016年のアメリカ大統領選挙では「ローマ法王がトランプ候補の支持を表明」「クリントン候補がテロ組織に資金を渡した」など、いかにも報道サイトっぽい雰囲気のウェブサイトに掲載され、それがあたかも事実のように拡散した。

https://www.jiyu.co.jp/singo/index.php?eid=00034

この説明を読んで、違和感を持つ人も多いのではないかと思います。それは、トランプ米国大統領が繰り返し、CNNなどの既存メディアの報道に対して「フェイクニュースだ!」と言っていたそのイメージこそが日本人のフェイクニュースのイメージだからと思います。

実は同じ年の米国のアメリカ方言学会(Amecian Dialet Society)によってフェイクニュース(Fake News)が流行語 (word of the year)に選ばれています。選ばれた理由を以下のように述べています。

「トランプ大統領が2017年の初めから、自分を批判するメディアニュースをフェイクニュースとして繰り返し罵るようになり、それが2016年の大統領選挙中にソーシャルメディアで見られたオンラインで広まった誤った情報や偽情報のための偽ニュースという以前の使用から意味が変化したのです。そして、トランプ版のフェイクニュースは、主流メディアの偏見を明らかにしようとして、大統領の支持者の間でキャッチフレーズになりました」

アメリカ方言学会:フェイクニュースはADSの2017年の流行より抜粋)

つまりフェイクニュースの意味は変化しているのです。2016年のトランプ大統領の選挙戦の際に使われ始めたオンラインでの偽ニュースという意味から、トランプ大統領によって意味が広がって使われていったことがわかります。

そして、更にフェイクニュースの意味は発展を遂げています。アメリカで発祥したソーシャルメディアコミュニティーから、世界にフェイクニュースコミュニティーが広がっているというQAnonという最新のトピックをみていきたいと思います。

QAnonの正体とは? 「悪魔崇拝者・小児性愛者の秘密結社」が存在していると信じている

2017年後半からアメリカではフェイクニュースの拡散により、陰謀論の信奉者が増殖し、その動きは2020年のアメリカ大統領選挙に影響を与え、そして欧州諸国にも広まり、日本でも信奉者が増えているとソーシャルメディア分析会社のグラフィカが調査結果を公表しています。

その陰謀論の名前が、「QAnon」です。

「QAnon」は「児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者の秘密結社である闇の政府が、アメリカの政界やメディアを支配している。トランプ大統領は、その陰謀を阻止する救世主である」という陰謀論です。日本でも2020年10月にNHKの国際報道やTBSのNew23で取り上げられました。

QAnonの始まりは、2017年10月28日に匿名の画像掲示板への投稿された「嵐の前の静けさ」( Calm Before the Storm)というタイトルのスレッドです。この投稿をした個人が「Q」として知られるようになり、それがこの陰謀論の呼称の由来となりました。投稿者のハンドルネームのQは、アメリカの最高機密情報にアクセスするために必要な「Qクリアランス」を有していることを暗示していると考えられ、アノンは英語で、匿名という意味のアノニマスに由来して、「QAnon」と呼ばれるようになりました。Qによる一連の投稿は、Qドロップと知られています。Qのメッセージは不可解で、それを解釈・分析することを中心としたReddit コミュニティーが形成され(既に閉鎖)、そしてTwitter、YouTube、Facebook、Instagram、Tikitokなどのソーシャルメディアに拡散されていったのです。

Where we go one we go all(我々は一致団結して進んでいく)」がQAnonで特に人気のスローガンで、QAnon信奉者は、ソーシャルメディアの投稿に「WWG1WGA!」の#ハッシュタグを多く使っています。

そして「QAnon」の理念に沿った投稿の量は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の最中に更に増え、信奉者が増え続けています。

QAnonの事実無根の主張

QAnonは事実無根かつ裏付けのない主張を多く投稿しています。一部をあげます。

  1. バラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、ジョージ・ソロスらはトランプ大統領に対するクーデターを計画しており、国際的な児童売春組織に関与している。(https://en.wikipedia.org/wiki/QAnon#cite_note-nymag-16より)
  2. 一部のハリウッド俳優は小児性愛者であり、ロスチャイルド家は悪魔崇拝のカルト教団を率いている。(https://en.wikipedia.org/wiki/QAnon#cite_note-nymag-16より)
  3. QAnon信奉者は、新型コロナウイルスの「奇跡の治療法」であるとして、ミラクルミネラルソリューションという工業用漂白剤を飲むことを奨励している。(https://www.businessinsider.com/china-coronavirus-wuhan-cure-qanon-mms-bleach-conspiracy-2020-1より)
  4. Microsoftの共同創業者で慈善事業家のBill Gates氏が米国民にマイクロチップを埋め込むためにこのパンデミックを利用している。(https://www.businessinsider.com/bill-gates-vaccine-conspiracy-theories-are-stupid-2020-6より)
  5. 金正恩(キムジョンウン)は米国中央情報局(CIA)が据えた傀儡だ。(https://en.wikipedia.org/wiki/QAnon#cite_note-nymag-16より)
  6. 闇の政府(ディープステート)の政治家とハリウッドのセレブリティが、大規模な児童買春ネットワークに関与しており、悪魔的儀式の対象となり性的虐待を受けた子供から、アドレナリンが酸化することで得られる化学物質、アドレナクロムを得ているとなどと主張している。これら政治家やセレブは、精神作用やアンチエイジングのためにアドレナクロムを消費している。(https://www.mashupreporter.com/qアノン-悪魔のレトリックに潜む危険/より)

巧みにソーシャルメディアで拡散するQAnon

こうした支離滅裂な主張を無視できないのは、「熱心な層だけでも数十万人」(米紙ニューヨーク・タイムズ)、専門家によっては数百万人とも推測するほどに信奉者が広がっているからです。QAnonは、ソーシャルメディアでの拡散を巧みに使っています。

「Q」の投稿は暗号交じりで難解なので、それを解読、解説して転送し、情報拡散の「ノード(起点)」となる信奉者がいます。そして、それを読んだ人が「いいね」を付けて転送したり、リツイートしたりすれば、そこに新たなノードができるわけです。

つまり、QAnonは「分散型」のネットワークで、メンバー間で次々に新しい考えや会話が生まれています。特定の人物が偽情報を大量に複製・拡散しているわけではなく、信奉者たちが、拡散していく際に、組み合わせては、独自の突拍子もない主張に至ったりしているのです。

Qは、タイム誌2020年版“ネットで最も影響力のある25人”に選ばれるほどの影響力があると考えられています。そして、いまやQAnonは、反権威主義のカルト宗教的な動きとなっています。

265回もQAnon関係のツイートに返信・リツイートしているトランプ大統領

「QAnon」の信奉者はトランプ大統領の熱狂的支持者が多く、『Q』という文字が入ったTシャツを着たり、旗や横断幕をトランプ大統領の集会に参加しています。

過去にトランプ大統領はわざとか知らずしてかは不明ですが、「QAnon」信奉者の発言をリツイートしてきました。ある調査によると、10月30日時点で、トランプ大統領はQAnonと関係している152個のTwitterアカウントに返信したりリツイートすることで、少なくとも265回、時には1日に何度もQAnonの主張を増幅したとされています。コロナ対策として工業用漂白剤を飲むことを奨励するツイートをしたこともあります。

トランプ大統領は8月18日の定例記者会見で「QAnon」について意見を求められ、「この国を愛する人たちだと聞いた」「おそらく僕のことが好きらしいというほかは、実際は何も知らないんだ」と答えています。しかし、再選へ向け、自身を支持する過激主義者を事実上容認する姿勢をとってきました。

また注目する点は、QAnon信奉者が政界に進出したことです。今年11月3日に大統領選と合わせて行われた連邦議会選挙では、QAnon信奉者が20人程度出馬しています。その中でジョージア州から連邦下院選に出馬しているマージョリー・テイラー・グリーン候補が当選しています。

FBIではテロ組織として認定・SNS各社も規制を行っている

2019年5月30日にFBIはQAnonが主導する過激派が国内テロの要因であると評価しました。QAnonなどの陰謀論は、反政府・反権威に関する過激主義に含まれる国内テロの脅威としています。(https://news.yahoo.com/fbi-documents-conspiracy-theories-terrorism-160000507.htmlより)

また、QAnonの拡大の温床となってきたSNS各社は関連するアカウントを削除するなどの監視を進めています。

Facebookは8月に、社内調査の結果、ポリシーに違反していることが判明した約3000のQAnon関連のグループとページを削除あるいは制限したと伝えられています。

その傘下のInstagramは1万件以上のQAnonアカウントを8月に制限し、10月6日には、QAnonに関連するすべてのページ、グループ、Instagramアカウントを削除すると述べ、対策を強化しました。

Twitterは7月にQAnonアカウントの取り締まりを始め、規則に違反したとしてQAnon関連の数千のアカウントを削除したと発表しています。しかし、そのうちの一部は別のアカウント名で活動を再開していることが確認されています。

TikTokも、QAnon関連のハッシュタグを禁止しました。

YouTubeは、2020年初めに発効したモデレーションポリシーにより、QAnon動画の視聴回数が70%減少したとしています。

ビジネスに特化したSNSであるLinkedInでも、偽情報を投稿したり、自分のプロフィールにQAnonのスローガンを掲載するユーザーを取り締まっています。(https://japan.cnet.com/article/35160790/2/より)

ただ、SNS企業がアカウントを削除するには限界があります。FacebookはQAnon関連のグループやページの削除しましたが、個人アカウントの削除はしていません。削除対象が個人になると、表現の自由の問題が出ますし、「この書き込みには虚偽が含まれています」といった警告は、そんな警告自体が大きな陰謀の一部と解釈されてしまうためにあまり効果はないと考えられています。
そして、削除しても、ほかのSNSでまた拡散していきます。ツイートについては、リツイートの回数や「いいね」の数が多いと、それだけで信用したくなるという人間の心理が働き、あまり信憑性を考えずにまたシェアされてしまいます。
このようにアメリカでは、このQAnonの動きはますます勢いをまし、このフェイクニュースの拡散を止める特効薬はみつかっていないのです。(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/11/q-1.phpより)

”陰謀論”や”フェイクニュース”を根絶するのは難しい

QAnon動きはこのコロナ渦ソーシャルメディアへの依存度が深まる中、ますます広がりをみせ、世界に拡散しています。QAnonの主張は、ほとんどが根拠の薄い支離滅裂な主張であるフェイクニュースで、拡散の間にますます変化を遂げています。拡散の間に、QAnonを語って主張する人がそれこそウイルスのように増殖し、どんどん新しいフェイクニュースが生まれているのです。QAnon信奉者と自分で思っていなくても、ソーシャルメディアから拾って、全部ではなく一部のフェイクニュースを信じることとなっている人の数を考えるとQAnonの影響は計り知れません。

FBIによって国内テロと認定されたQAnon。それは関連のフェイクニュースが多くの個人をターゲットとしてあげていることもテロ脅威の理由なのです。アメリカ発祥ですが、既にヨーロッパでは独自のフェイクニュースの広がりもみせていて、また日本でも信奉者が増えています。日本ではまだアメリカのフェイクニュースの拡散で影響は限定的ですが、今後どのような広がりを見せていくのでしょうか?

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CUBE MEDIA