3月7日まで緊急事態宣言延長が延長される中、静かに街の姿が変わりつつあるのを知っているでしょうか?
駅前のテナントビルやショッピングモールでテナントの撤退が相次いでおり、中には全店舗が撤退してしまったビルまで見られるようになっているのです。
撤退の原因として考えられるのがテナント料の負担です。コロナ禍になり、「場所」が抱えるメリットとデメリットが可視化された結果と言えるのではないでしょうか。
そこで、この記事では「場所」が抱えるメリットとデメリットを再確認してみましょう。仕事の場所が自由度を増す中、場所が持つ意味を問います。
現在、ネット上での経済活動に追い風が吹いています。一方で、現実世界での経済活動は向かい風。特に立地の良い場所ほど厳しい状況にあります。
そして今、「場所」に関するさまざまな変化が起こっています。まずは、その中から代表的な3つの事例を紹介します。
駅前やショッピングモールを中心に、全国でテナントの撤退が頻発しています。はっきりとコロナの影響と言えるわけではありませんが、全国で同様の事態が起こっていることから、少なからず影響はあると考えられます。
オフィスビルの空室率上昇が続いています。オフィス仲介大手の「三鬼商事株式会社」の調査によると、東京エリアのオフィスビル空室率は昨年2月から11月連続上昇中。2021年1月の空室率は4.82%で、2020年1月と比べて3.29%高い結果となっています。
空室率の上昇は2020年6月以降から顕著で、1ヶ月で0.16~0.8%の上昇幅で推移しています。
仙台や札幌、横浜といった東京以外のエリアでも概ね同様の傾向で、一時的に空室率が下降することもありますが、全体で見ると上昇傾向が続いています。
2020年は、東京からの移住増加が顕著に表れた年でした。
総務省が発表した、2020年(令和2年)住民基本台帳人口移動報告によると、2020年の転入超過数は東京都がもっとも減少。一方で東京に隣接する埼玉県・千葉県・神奈川県では2019年並みの数値をキープしています。
(出典:総務省 2020年(令和2年)住民基本台帳人口移動報告)
さらに、このデータを、埼玉県、千葉県、神奈川県の転入者内訳にしぼって見ると、東京都からの転入者がもっとも多い結果となり、東京圏での移住増加がより明確となります(出典:総務省 e-Stat)。
そもそも、「場所」にこだわる意味とはなんでしょうか?
リモートワークが一般化しつつある今、「場所」にこだわる意味は減少しています。今まで、場所の優位性はダイレクトに利益に繋がっていましたが、その構図が急激に変化しつつあるのです。
そこで、ここでは「場所」の抱えるメリットとデメリットを「経済活動」を軸にして見ていきましょう。
良い場所に出店すると「効率的な集客による利益の獲得」が可能です。
商店街やショッピングモールといった「店舗が集まるエリア」や、駅前のような「一等地」では特にハッキリメリットを体感できます。
「店舗が集まるエリア」では、魅力的な店舗を集積することでエリア全体の魅力が上がったり、買い回りが良くなったりするため、多くの人が集まります。
また、「一等地」では日常的に人通りが多いため、見込める客数自体にアドバンテージがあります。
都心に本社ビルが多く集まっているように、人が集まるところに人はさらに集まります。
経済活動とは、人と人とのやり取りによって行われています。
本社が集まる都心部に立地すれば、企業同士のやり取りを素早く行うことができ、結果経済活動が効率化され、利益を多く生み出すことに繋がります。
特に、人同士のやり取りが大切な「企画」や「設計」などと相性が良く、都心では毎日多くのアイディアが生み出されています。
「効率的な集客による利益の獲得」を維持するには、その場所に居続けるために土地・建物の賃料や固定資産税といったコストが必要です。
立地がコストに与える影響は多く、土地の利便性が良いと、それだけ賃料や固定資産税も高くなります。
実体経済が停滞してしまった今、このデメリットが非常に重くのしかかってきています。
現状は、店側の原因によってお客が減るのではなく、そもそもお客が買い物に出ない状態です。
これは、例えれば魚の少ない釣り堀で釣りをするような状態。釣り堀代だけがかかり、魚というリターンが得られない状態が続いてしまっているのです。
人が多く集まる場所では、伝染病や感染症の感染リスクも考えなくてはいけません。
東京の新型コロナウイルス感染者数は、全国でもっとも高い数値で推移しています。主な感染経路である、直接・間接的な接触や、閉所で人が多く集まる「密の場」の形成が関係していると考えられます。
どちらも、人が多く集まることで起こりやすい状況です。
過去の例から見ても、かつてアフリカの小部落の病であったエイズは、住民の都市への移住をきっかけに拡大した歴史があり、インドのガンジス河流域を中心に蔓延していたコレラも、交通の利便化をきっかけに、世界の各都市へと広がっていった歴史があります。
人が少ない場所では影響力が少なかった病気が、人が集まった場所へ運ばれることで、一気に拡大してしまう可能性があるのです。
新型コロナの感染者数増加や、リモートワークやオンラインショッピングが一般化したことにより、「場所」が抱えるメリット低下が叫ばれるようになり、地方での暮らしが注目されています。
しかし、「場所」が経済上のメリットを失うかといったら、おそらく答えはNOだと考えられます。どんなにネット環境が整っても、私たちの生活はどこかで現実世界とリンクする必要があるのです。
ここでは、「場所」が抱えるメリットが「0」にならない理由について解説していきます。
リモートワーク下でも、定期的な出社を必要とする会社は多いです。
リモートワークが普及し始めたとき、決裁の「はんこ」が問題になりました。
オンラインで制作した成果物に対して、決裁の印を押すためだけに、出社する必要があったのです。
はんこはその後電子化が推進され、問題は解決へ進みましたが、この問題はリモートワークをどこかで実体化しないといけないことを教えてくれました。100%リモートワークが可能な業種は限定的なのです。
そのため、オフィスの地方移転や社員の遠方への移住が起こるケースは、そこまで多くないと考えられます。
余暇を潤してくれる都市部から遠く離れる人は少ないと考えられます。
緊急事態宣言下になってみると、SNSで「買い物へ行きたい」とか、「お出かけがしたい」といった声が多く見受けられるようになりました。
買い物や映画鑑賞、さらにはオンラインライブなど、確かにオンライン上でできることは増えましたが、やはり「外へ出て楽しみたい」と意見が多いのです。
そのため、コロナ禍を一時的なものだと捉え、感染が収束してきたタイミングで、都市部へ戻りたいと考えている人は多いのではないでしょうか。
今後、コロナ禍が続いたとしても、人口の本格的な分散には至らないのではないかと思います。首都圏で考えると、東京を中心にした社会構造は維持されつつ、居住地にアクセスの良い地方都市を選ぶ人が増えるのではないでしょうか。
確かに、埼玉・千葉・神奈川への転入は増えていますが、東京の代替となる居住地を探していると考えると、候補になる居住地は地方都市止まりと考えられます。
具体的に言うと、都心へ30分程度でアクセスでき、急行が止まるターミナル駅の周辺あたりが想像できます。
課題として残るのが、通勤時や日中の人口密度です。
経済の中心が東京にある限り、日中人口の改善には繋がりません。恒常的な人口分散を実現するには、経済活動拠点も分散させる必要があります。
現在、郊外へ分散しているのは工場や倉庫がメインで、住宅地やオフィス、商業地の分散は行われていません。
そもそも都市計画が「コンパクトシティ」をベースに考えられているため、都市空間の拡大は考えられていないのです。
コンパクトシティを継続しながら人口密度を分散するには、地方都市を核とした都市圏形成が重要になってくると考えられます。
現在の都市圏は、東京を中心とした広域的なものです。東京の機能を地方都市へ少しずつ分散し、小さな都市圏を複数作ることで、日中人口の分散化が可能になります。
新型コロナウイルスに限らず、伝染病は都市部で蔓延してきた歴史があります。
東京での感染拡大は、東京への一極集中を理解しつつも、本格的な改善をしきれなかった結果とも言えるのかもしれません。
しかし、都市が抱えるデメリットが明らかになった今、この経験を今後の都市形成に活かすべきです。
グローバル化された社会において、いつ次の伝染病が流行るとも分かりません。コロナ禍をきっかけに、人口密度のコントロールを念頭に置いた都市形成を考えるべきではないでしょうか。