政治・経済

スペインがベーシックインカム導入との報道は誤り(実際は貧困層への支援)

先日記事でも触れた通り、コロナウイルスに伴う多くの経済機能停止に伴い、ベーシックインカムに注目が集まっています。

そして本日、スペインにてユニバーサル・ベーシックインカムの導入を経済大臣が宣言した、との報道がありました。

スペインで「ベーシック・インカム」導入、経済大臣が宣言
https://forbesjapan.com/articles/detail/33596/1/1/1

ついに人類の歴史にユニバーサル・ベーシックインカムの第一歩が刻まれたのか、と思いましたが、調べてみると残念ながら純粋なベーシックインカム導入とは言えないようです。

あくまで低所得者への給付

スペインの放送局La Sextaへ、経済大臣が語ったという形でソースが記述されていますが、実際に現地メディアのページを見ると、少し齟齬があることがわかります。

参照:Nadia Calviño: “Vamos a implementar lo antes posible el ingreso mínimo vital”(スペイン語)

“El ministro Escrivá, junto a otros ministerios, está coordinando cómo preparar ese ingreso mínimo vital, cómo se complementa con otros instrumentos y cuál es la población objetivo”, ha detallado Calviño, que ha matizado además que se van a centrar “mucho en las familias, pero diferenciando las circunstancias”.

https://www.lasexta.com/programas/el-objetivo/noticias/nadia-calvino-vamos-a-implementar-lo-antes-posible-el-ingreso-minimo-vital_202004055e8a498a237979000147f3f7.html

エスクリバ大臣は、他の省庁と共に、最低限の重要な収入を確保する方法、他の手段によって保管される方法、そして対象となる人口をどのぐらいにするかを調整しています。また「家族は多いが、状況を差別化する」とも述べています。

あくまで支給されるのは、最低限の収入すら得られなかった人達であることがしっかりと語られています。これはどちらかというと生活保護等の多くの国で行われている制度と同じであり、すべての国民に一律で生活費を配布するベーシックインカムとは異なるものです。

危機に立たされているスペイン

ベーシックインカムの扉が開けたわけでないことに、少しがっかりしましたか?
しかし、現状のスペインについて知るのであれば、このような発表がなされた背景についても理解できるでしょう。

現在(4/8 正午)WHOの集計によると、最も死者数の多い国はイタリア、2番目はスペインです(アメリカは3位)

3月14日には「警戒事態」を宣言し、外出を禁止しました。それ以来4週間に渡って国民は外出をしておらず、少なくとも今月26日までは警戒事態が続きます。
警察・軍によって移動が監視され、空からはドローンで撮影されています。もし複数人での外出が発見された場合には3万円以上の罰金が課されます。

例外として犬の散歩は許されていますが、ペットを飼っている人ばかりでは有りません。結果として犬のレンタルサービスまでできる始末です。

財政もあまり豊かでは有りません。2012年に経済危機を経験した同国は、EUの中でも財政赤字の大きい国です。
緊縮政策が求められ、それにより病床数が減ったことも、こんかいのコロナウイルスでの被害に拍車をかけています。
財政改善を図るため、EU共同債(コロナ債)を発行するよう要請していますが、ドイツやオランダ等の比較的経済力のある国が反対しており、見通しは立っていません。

そのような危機に立たされている中、国民の不安や国のイメージ悪化を避けるため、検討している手段が貧困層への永続的な給付金なのでしょう。

ベーシックインカムには入念な準備が必要

これまでもベーシックインカムを、試験的に小規模導入してきた国はあります。
しかしながら、ベーシックインカムはこれまで与えられてきた国民への社会的保証をなくし、かわりに現金を配布する制度です。
現状実験で明らかになったことは、「維持できる金額の頒布だと国民には不十分」「国民が満足できる分の金額は政府の財政的に難しい」という、身も蓋もない結末でした。

例え実行できるとしても、今まで国が行ってきたどの社会保証を維持し、どの保証は無くして良いのか、入念な検討が必要です。社会保障がなくなることで、多少の現金ではカバーできないほど負担の増える人が出てくるでしょうし、一度廃した社会保障を復活させるのは至難の業だからです。

コロナウイルスによる世界的不況により、イギリスやアメリカの一部の週等で確かにベーシックインカムは検討されています。
しかし「では来月からやりましょう」といって初めることはできないでしょう。多くの社会的な弱者にとって社会保障は命綱だからです。
ですから、ベーシックインカムが施工するためには、一部の人の労働でそれらのライフラインが維持できるまで、社会や技術が発展することが不可欠です。
いずれ人類はベーシック・インカムに至ると思われますが、残念ながら、その1歩が踏まれるのは、もう少し時間がかかるものと思われます。

ただしコロナウイルスにより、ベーシックインカムへの流れが加速したことは間違いないと思います。一部の人の労働で社会を動かすのは難しいですが、今回その必要性が認識されたからです。
これからAI技術やロボット技術は、無人化の方向へ進んでいくと思われます。多少コストが高くても、リスクは低く抑えられるせいです。

今回のコロナ禍により、多くの人が社会保障や国の財政について、頭を働かせています。日本でも現金給付を、どの層に、いくら支払うのか、喧々諤々の議論がなされています。

コロナウイルスが収束してもこの議題は論じられ続け、どのような社会が理想的なのか、考える機会になると思います。しかしながら今はまず、危機に貧している人達がこの苦境を乗り越えられるよう、緊急的な支援を模索すべきです。

View Comments

  • コスタリカの奇跡のように私たち日本が軍備を撤廃すればアメリカ軍基地は不要になります。軍事産業を明るい未来のための産業に変えてください。
    いつ誰の身にも起こりうる弱者という立場への最低限の保障を政府がしないなんて
    憲法違反。  煩雑な生活保護は少し心が歪みます。
    ベーシックインカムの方が安心できます。
    それが余剰金となる方は自分への投資に回してください。

  • 続報が気になっていたので記事助かりました。
    EUの場合、日本と違いどうしても財源問題になるのでBIは無理なのでは?
    と思っていたので納得いたしました。
    ねこでもわかる経済学でまとめられているようなBIが日本に導入されることを
    強く願います。

  • 緊急対策として、ベーシックインカム的に国民全員一律に現金を支給し、確定申告時に調整するような事は出来ないのでしょうか。

  • BIは行き詰まった資本主義を打開する制度だと思います。その効果はいくつか考えられますが、一番効果的だと思われる可能性として、義務教育現場において携わる人種が入れ替わる現象が発生するのではないかということが期待できます。つまり、教育現場に就く人がその労働条件を第一に考えてそこに集中するのではなく、社会のために貢献したいと考える人たちと入れ替わる可能性が期待できるのではないかと考えるのです。あとは、ブラック企業はグレー企業に、グレー企業はよりライトな色になる可能性も期待できます。立場の弱い人たちが生き易くなり、税金をより公平に分配できる。行き場の不透明な税金の行き先に歯止めをかける可能性に期待が持てるかも。など、弱い立場の人たちを根本的に掬う手立てとなりうるのではと思います。

  • この様な時期には国民全員に一律に同額の金を支給するのが、一番公平なやり方だと思う。

  • 1945年、日本はアメリカに国土をめちゃくちゃにされ、多くの戦死者をだしたのに、その戦争の最高責任者の天皇を罰せず、相変わらず天皇制を残した日本人の理屈のない物の考え方は疑問である。何も考えてない日本人、これが今の日本の政治だと思う。原爆を落とされたのは日本だけである。癒しとかグルメが国民の最高の望みであっては情けない。韓国も中国もとっくに大制はなくなっている。

  • 誤字が気になりました。 

    ベーシックインカム、聞こえはいいですが実際には平等という名の不平等だと思います。

Published by
安藤隆史