「GPT-3」の実力と驚異については前回お伝えしましたが、では実際に多くの人や企業が「GPT-3」を使えるようになった場合、どのように世界は変化するのか、という点を考えてみました。
なお、この場でいきなり「人間は働かなくて良くなる!」とかそういった壮大な未来図は語りません。
もちろんいずれシンギュラリティはくるでしょうし、「GPT-3」によってその片鱗が見えるのは確かですが、それらを行うAIの名前は「GPT-3」とは変わったものになっているはずです。
なのであくまで現状わかっている「GPT-3」によって何が起きるか、
リリースされて数ヶ月で何が起きるか、を考えたいと思います。
夢のある話ではないので少し退屈かもしれませんが、それでも結構大きな変化だと思います。
文章が「溢れる」
ニュースを伝えるにせよ、コラムを書くにせよ、現状それなりに時間がかかります。
例えば私が「コロナによる食糧不足 なぜ起こるのか」という記事を書くとしましょう。
頭の中で構成を考え、筋書きをまず記入していきます。
何故起こるのか
・多くの国(特にアメリカ)で、食糧生産は「季節性労働者」に頼っている
・不安からくる輸出制限
・日本への影響は?今の所限定的か
・グローバルからローカルへ
そしてそれぞれの情報源を用意し、記事を膨らまし、順序立てて文章にしていきます。
たとえ結論だけ話せば5行で終わるような内容であっても、誰かに伝えるには、数字や例示、可能性の話等、膨らませて語らなければ、「誰もが読んで同じことを理解できる」文章とはなりません。
それが「ライター」という役割であり職業でした。
しかし「GPT-3」はその役割を、簡単に、スピーディーに担ってしまいます。
少なくとも途中の筋書きから、文章をふくらませることは問題なくこなすでしょう。題材によっては、タイトルを提示すればしっかりと構成・内容まで組み立て、信頼できる文章を生成してくれます。
その結果何が起こるでしょうか?
「世の中に文章が溢れる」のです。
今まで「文章を書く」というのは、それなりのスキルが必要でした。
twitterの140時程度なら誰でもかけるかもしれませんが、noteに書くような文章についてはスキルと根気と知識が入ります。
しかし「GPT-3」が自由に使えるなら?
「そうだ……○○を▲▲すればいいんだ!みんなに訴えかけよう」
と思いついた3分後には、noteに2000文字以上の文章を掲載することが出来ます。(それが”読まれるかどうかはともかくとして)
”巷に文章が氾濫する”ことは間違いないでしょう。
「簡単な○○」の無料化
そして前回お話したとおり、「GPT-3」の範疇は文章だけにとどまりません。
「○○のようなデザインを作って」と書いた場合、それに沿ったデザインを作ります。WEBデザインであればコーディングまで行ってくれるでしょう。
また、簡単なプログラミングやSQL文なども書いてくれます。
しかしながら、すぐに”誰でもそれらが実用として使える”ことにはなりません。
例えばword・Excelがかろうじて使えるレベルの人に、いきなりhtmlとcssのセットを渡したところで、扱いに困りますよね?
もちろんいずれは”実用的な道具”まで落とし込むことに成功したプロダクトが、いくつも出てくるかと思います。ただ数ヶ月でそのレベルのサービスは流石に難しいでしょう。
どちらかというと、”プログラミングはできるが、デザインはできない”、”自分でwordpressの管理はできるが、込み入ったデータベースの処理は出来ない”といった方にとって、大変役に立つはずです。
よく素晴らしいプログラムやゲームの試作品をネット上にアップされている方がいらっしゃるのですが、技術がすばらしくてもUIが残念なため、”技術の分かる人”にしか触ってもらえない、という光景をよく見ます。
しかしそういった方にも、今後は素晴らしいUIを「GPT-3」が授けてくれるでしょう。(もちろん、使い勝手まで計算された”本当に素晴らしいUI”とは少し違うかもしれませんが、”それなりに見栄えのするUI”は手に入るはずです)
知らずに著作権違反する疑いも…
なお私が今気になっている点が一つあります。
「GPT-3」の生成物には、データセット内にベースになった物が存在しているはずです。
それが原型も留めていないような場合はいいのですが、細かく要件を指定した際、実在のデザインによく似た物が出来上がる可能性があります。
例えば、「りんごをモチーフにしたロゴ」と指定した時、(私はまだGPT-3のAPIを持っていないのでわかりませんが)、Appleのロゴに似たものが出来る確率はそこまで低くないでしょう。
問題は、Appleのロゴを知らないままそれを使用してしまった場合です。
また逆に「GPT-3」に作曲をしてもらったとしましょう。
その曲の著作権は誰にあるのでしょうか?最初に「GPT-3、作曲して!」と書いた人ですか?
もし誰か別の「GPT-3」が、自分の「GPT-3」とよく似た旋律を紡ぎ出したら?
今後AIや機械学習をベースにしたコンテンツは多くなってくると思います。
そんな中で、著作権者の所在や法のあり方についても、疑問が呈されるかもしれません。
”検索”が変わる?終わる?
話をもとに戻します。
このように文章やコンテンツの量産が可能になった場合、巷には多くの文章が溢れることでしょう。
個人的にはgoogleがどのように対応するのか見ものです。
すでに”コピペBLOG”の乱立により「若者のgoogle離れ」が叫ばれ始めている今、AIによる自動生成コンテンツにも検索機能は対応できるのでしょうか。
具体的には、”有益と思われるコンテンツ”を見分け、更に検索順位を割り振った上で、適切な検索ワードに結果を表示しなければいけません。
Googleのことですから上手くやるのかもしれませんが、ひょっとしたら「検索エンジン」そのものがGPT-3に取って代わられるかもしれません。
「非実在アカウント」をどう阻止するか
そして前回も書いたとおり、”実在しない人格”を作ることが用意になります。
その結果何が起こるでしょうか、ステルスマーケティングや、人々の思想を捻じ曲げることが可能になるのです。
すでに数年前から、こういった”BOT”による工作は問題になっています。
例えば2016年の米国大統領戦では、BOTがトランプ氏のツイートを47万もリツイートしていたことが調査で明らかになっています。
参照:https://japan.cnet.com/article/35113830/
これらのBOTに対して、更にGPT-3を使った場合どうなるでしょうか。
ほぼ違和感のないBOTが出来上がるはずです。
そういったBOTがSNSで大量にフォロワーを獲得し、一斉に同じ主張をしだした場合、たとえ人々が扇動されなかったとしても、「なにかある」と疑念を抱かせることが出来ます。
ステルスマーケティングに収まっている間はいいかもしれません。
しかし法案や国際問題、ひいてはヘイトにまで及んだら?
状況を楽観視するには、暗い歴史が多すぎます。
一番手っ取り早い対策は「個人情報と紐付ける」ことです。
マイナンバー等との紐付けを義務化すれば、BOTと簡単に見分けがつくことになります。
しかしプライバシーの問題もありますし、お金欲しさにアカウントを売る人も出てくるでしょう。
海外サービスを利用した場合、個人情報が海外へ渡ってしまうかもしれません。
このあたりの問題を、AIが発達してきた今、考えていく必要があります。
おまけ 日本語でのGPT-3運用について
色々懸念を書きましたが、まずもって最初の前提として、「日本語でGPT-3って使えるの?」という疑問があるかと思います。
@Merzmensch氏が日本語を入力してくれた結果、てにをは等の違和感はないのですが、使う語彙に少し違和感があるような結果が出てきました。
もちろんもっと色々実験してみなければ、まだ結論は下せないでしょう。
ただ、ひょっとしたらデータセットの調整等が必要になるかもしれませんね。