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感染力が10倍に高まった(?)新型コロナウイルスの変異株「D614G」とは何か?

今や、テレビも新聞も、新型コロナウイルスの感染者数を取り上げない日はない。
しかし、あまり取り上げられていないことがある。
それは、ウイルスとは常に変異していくということだ。
実際、季節性インフルエンザは毎年のように変異している。そのため、季節性インフルエンザワクチンは毎年アップデートされている。
ところが多くの新型コロナウイルス関連の報道は、なんとなくウイルスが常に同じ状態にあることが前提となっているように思われるのだ。
そのような中、マレーシアで新型のコロナウイルス株による感染者が見つかった。
その新型は、感染力が10倍に高まっているという。
これは恐れるべき変異なのだろうか?

D614Gという変異株の感染者が見つかった

2020年8月17日付けの『Bloomberg』(※1)によると、インドからマレーシアに帰国した男性から発生したクラスター感染者45名の中に、D614Gと呼ばれる変異株が発見された。
この男性はマレーシアに到着した際の検査では陰性だったのだが、14日間の自宅隔離措置に違反したため、懲役5ヶ月の刑と罰金を科せられている。
今回発見されたD614G株は、既に欧米など他の国々でも発見されており、中国での最近のクラスターでも検出されているという。
しかし世界保健機構(WHO)では、D614G株がより重篤な疾患に繋がる証拠はないとしている。
一方、香港大学の疫学と生物統計学の責任者であるベンジャミン・カウリング(Benjamin Cowling)氏は、D614Gが他の株よりも感染力が遙かに高いという証拠はないとしつつも、競争上の優位性がある可能性は示唆されていると指摘する。
また、マレーシア国務長官のヌーア・ヒシャム・アブドラ(Noor Hisham Abdullah)氏は、この株に対しては現在開発中のワクチンでは効果がないかもしれないと警告を発している。
はたして、いずれの主張が正しいのだろうか。

※1 『Southeast Asia Detects Mutated Virus Strain Sweeping the World – Bloomberg』

D614G株の感染力は10倍?

D614Gは2020年2月頃にイタリアで発見され、その後各国で発見されていたとされる。
これまでの新型コロナウイルスとの違いは、ウイルスが人の細胞に侵入するために使っているウイルス表面のスパイクタンパク質にある。これは614番目のアミノ酸の配列が、アスパラギン酸(D)からグリシン(G)に変異したことによるという。それで「D」「614」「G」と呼ばれている。
2020年8月18日付けの『The TIMES OF INDIA』(※2)によると、計算生物学者であり集団遺伝学者でもあるベット・コーバー(Bette Korber)氏は、D614G株が至るところで優勢になっていることから、感染力が高まった可能性があるという。
また、フロリダのスクリップス大学(Scripps University)の実験室内での実験によっても、スパイクタンパク質の変異が人の細胞への侵入能力高めていることが分かったようだ。
同様に、ニューヨーク・ゲノムセンター(New York Genome Center)とニューヨーク大学(New York University)での実験でも、ウイルスの感染力が高まったことが示されたという。ただし、実験室での結果が実際の人への感染力を示しているとは限らないとも補足している。
そして前出のコーバー氏が科学誌『Cell』で発表した研究結果と中国のWHO Collaborating Centerの2番目の研究によれば、D614Gの感染力は武漢で確認されたウイルスよりも10倍高い感染力を持っているとのことだ。
ただし『The TIMES OF INDIA』の記事に依れば、D614Gへの変異が現在開発中のワクチンの効果に影響を与えることはないとしている。
それは、D614Gへのスパイクタンパク質の変異は、スパイクタンパク質の先端にある受容体結合ドメイン(RBD)までは変化させていないため、免疫システムの主要なターゲットである重要なRBD免疫原性部分を変えていないためだ。
また、2020年7月6日付けの『NEW MEXICO CONSORTIUM』(※3)には、D614Gは感染力が高いとしながらも、良いニュースとして、この変異が病気の重症度を増加させていないことを記載している。

※2 『What is D614G strain: Ten times more infectious than Coronavirus: All you need to know about D614G | India News – Times of India』

※3 『Bette Korber and Colleagues Publish Research on COVID-19 Virus Variant – NEW MEXICO CONSORTIUM』

ウイルスの変異には冷静に対応すべき

とはいえ、変化を続ける新型コロナウイルスについては、ワクチンの調整は必要だ。
それは、季節性インフルエンザのワクチンを、インフルエンザウイルスの変化に応じて毎年少しずつ調整していることと同じだ。
以上のことから、現時点では新型コロナウイルスがD614Gに変異したことは、感染力が高まっても重傷化が増加したわけではなく、また開発中のワクチンを無効にするわけではないため、いたずらに恐れる必要はなさそうだ。
ただ、このようにウイルスは常に進化するため、季節性インフルエンザに対して行ってきたことと同様の注意が、今後も必要になるだろう。

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