「本の総額表示 義務化」って?影響や業界の反応【出版社が潰れる!?】
現在、2021年4月から実施予定の出版物総額表示義務化について多くの不満がSNS上に挙げられています。今回は、出版物総額表示義務化によって起こりうる影響や現状の関連業界の反応を中心にご紹介致します。
1、出版物の総額表示義務化とは?
そもそも、出版物の総額表示義務化とはどのようなことでしょう?ここでは、義務化や現状の表示義務についてご紹介致します。
1-1、出版物にも消費税の総額表示が義務化される
今まで税別表示が許可されてきた一般的な書籍販売に関して、2021年度4月から消費税別の総額表示が義務づけられるという法案が波紋を広げています。
なお、マスコミ関連書籍を刊行している「文化通信社」の情報によると、この出版物総額表示義務化においてはほぼ確定しているとのこと。
実は、この法案は2013年から開始されているものであり、税金の2度にわたる引き上げが生じたことが理由で、財務省で2019年10月頭~2021年3月末までの一定期間、総額表示義務を免除(消費税転嫁対策特別措置法)してきたという背景があるのです。
この免除対象となる期間が2021年3月末に終了することから、来年の4月から正式に出版物における総額表示義務が定められるということになります。
参考:https://www.j-cast.com/2020/09/16394557.html?p=all
1-2、現状の出版物消費税表記は(価格)+税
現在店頭やネットショップ上に並んでいる本は基本的に「~円 +税」表記となっており、税額の詳細金額に関しては明記されていません。
そのため総額表示への変更が義務化されると、差替えによって生じるコスト面の負担が出版業界や広告業界、新聞業界や作家などに大きくかかります。
1-3、今後の具体的な表記方法は?
具体的に総額表示は以下のような形になりますので、「税抜」というシールを追加するような処置もとれないことが分かります。
・税込金額(総額)のみ明記する場合| ~円、~円(税込)
・税込金額と税抜金額を別途明記する場合| ~円(税抜価格~円)
・税込金額と消費税額を明記する場合| ~円(うち消費税額~円)
・税込金額、税抜金額、消費税を明記する場合|~円(税抜価格~円、消費税額~円)
参考:https://www.tkc.jp/consolidate/webcolumn/014561
2、出版物の総額表示義務化によって起こりうる問題
実際に出版物の表示義務化によって、今後どのような問題が起こるのでしょうか。ここでは、書籍の回収の必要性や歴史的に考える影響についてご紹介致します。
2-1、現状市場に出回っている書籍は全て回収?
出版物の総額表示義務化によって今後問題となりうることは、やはり現状販売されている書籍の価格表示に関してです。
一般的に書籍物に関しては書籍のブックカバーに価格表示が印字されているため、価格表示義務が税込みになってしまうと、カバーの再印字コストや差替えにおいて大きなコスト負担が発生し、出版社からは対応困難だという声もあがっています。
このような総額表示義務化に関しては書籍だけに限ったことではありませんが、書籍の場合は他の商品とは異なり、販売店が事前に書籍を買い取る制度を取り入れていないケースが多いため、総額表示が義務化されてしまうと現状店頭にある本は出版社に返却せざるを得ない状況になってしまいます。
2-2、出版社1社あたり3500万円以上の損失?
実は同じような事例が過去にもあり、1989年には消費税導入の背景から多数の出版物が破棄され、カバー変更などの商品の差替えやそれに伴う運搬費など、出版社で多大なコストを費やす結果になりました。
このとき書籍の価格表示に伴う変更によって出版社1社あたり、平均3500万円以上の経費を費やさざるを得ない事態になったという報告もあります。
参考:https://note.com/fillmore_east/n/n6326f50c6d8b
3、出版物の総額表示義務化の反応は?
出版物の総額表示義務化に関して、現状では関連業界は実際どのような見解なのでしょうか。ここでは、出版協会などの反応や山田議員の見解、SNS上での反応をご紹介致します。
3-1、大きな混乱は起きない?
実際のところ、一般社団法人日本書籍出版協会(書籍刊行における出版社の業界が集まる団体)の見解では、現状本屋などで販売している本に関しては回収する必要性はなく、出版物の総額表示義務化によって大きな混乱は起きないであろうと認識しています。
参照:https://www.asahi.com/articles/ASN9J71WPN9JUCVL00L.html
3-3、山田議員「カバーの差替えは不要」
Twitterの書籍総額表示反対に対し、参議院議員の山田太郎議員は、税込総額を書籍のしおり部分やスリップ部分(書籍に挟まれている紙)に明記することで経費を抑えることができる旨を説明しています。
しかしながら、出版社によってはしおりであろうとスリップであろうと、結果的に余分に発生する経費によって破産へ追い込まれることがあるのではないかという不安が大きいようです。
その他、書籍によっては追加で発生する経費と利益率を考慮した上で、絶版せざるを得ない書籍も数多くでてくる可能性があることは否定できないのではないでしょうか。
3-4、出版協会や組合の反応
消費税総額表示に関して山田議員のTwitterでは、出版協会などへの聞き込み情報が投稿されており、日本書籍出版協会や日本出版取次協会、日本雑誌協会、日本書店商業組合連合会に関しては総額表示の見直しを積極的に要望しない旨が明記されています。
3-5、SNS上では多くの不満の声
SNS上では多くの編集者や作家がビジネスが成り立たなくなると訴えており、Twitterではハッシュタグを利用し『#出版物の総額表示義務化に反対します』という投稿が数多くみられます。
現状では出版社によっては、書籍本体自体の価格と消費税の両方を記載したり税率を明記したりする動きがあるとのことですが、これら処置がコスト的に不可能な出版社に関しては廃業に追い込まれるのではないでしょうか。
その他、Twitter上では義務違反だとしても総額表示はしない、小さな出版社の経営はどうなるのか、出版自体の文化の衰えにつながる、未来の作家業にも影響を及ぼすなど、多くの不満の声が挙げられています。
3、消費税が変わる度に差替えが必要
2021年4月からの総額表示が義務化されると、消費税が変わる都度カバー変更、またはスリップ(購入時書籍に挟まれている紙)の差替えなどが生じるため、人件費や印刷コスト、運搬費用などがが生じるため、長期的見解で出版業者や作家たちに大きな負担(これまで不必要だった経営負担)がかかることは間違いないのではないでしょうか。
まとめ
今回は、2021年4月から義務化される出版物の総額表示問題について影響や業界の反応についてまとめてみました。
多くの大手出版業界や出版協会、組合などに関しては、総額表示の見直しを積極的に要望する動きはないようですが、問題となるのは中小企業や個人です。総額表示義務化によって予想外のコスト負担が生じ、多くの業界で廃業などの問題が生じる可能性が高いことは否定できません。
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