「他の雄の精液を生産する雄」の開発 遺伝操作で成功
競馬に詳しい方でしたら、競走馬の精子が高値で取引されていることはご存知かと思います。
たとえばあの名馬「ディープインパクト」の種付け料は、世界一高い4000万円(2019年度)です。
しかしどれだけ高価であろうと、子孫を残し続けられるのはその馬が生きている間だけです。……今までは。
なんと最新の研究で「他の雄の精子を生み出す動物」をつくることができたというのです。
米ワシントン州立大学獣医学部のジョン·オートリー教授が率いる米英共同研究チームは、長年の研究の末、クリスパー遺伝子はさみ技術を利用して他の雄の精子を生産する動物を作り出すのに成功しました。
他の遺伝子が成長できる子宮を貸し出すのが代理母技術であるとすれば、この技術は他の遺伝子を持った精子を作り出す生殖器を貸すという点で「代理父」技術と呼ぶことができます。
実験のために研究陣はまず、実験動物である豚、ネズミ、ヤギ、牛の雄から精子を生産するNANOS2遺伝子の機能を遮断しました。 遺伝物質であるDNAから希望する部分を切り取ったり変えることができる酵素タンパク質からなるクリスパー遺伝子はさみを活用したものです。 これにより、実験動物は生殖能力のない不妊動物になりました。
次に、研究グループは他の雄動物の精子産生幹細胞を不妊動物の睾丸に移植したんです。 すると驚くべきことに、これらの雄は他の雄の遺伝情報を持つ精子を作り出しました。 こうして代理父から生み出された動物の精子から、ネズミは健康な2世を産みました。
技術の応用で食糧不足問題解決への期待も
自分と異なる雄の精子を生産する技術を活用すれば、低開発国の畜産農家でも先進国で飼育される最高級の畜産物を育てることができるようになります。 世界的な食糧不足問題を解決することもできるし、家畜飼育時に乱用される抗生剤の使用を減らすこともできます。
この技術によって絶滅の危機に瀕した動物を復元する道が開かれるものと期待しています。
しかし、このような技術は遺伝子組み換えに関する倫理問題を乗り越えてこそ、畜産業に適用することができます。
商用化段階に上がれるほど十分な技術開発が行われても、遺伝子編集倫理、動物倫理に関する法と大衆の認識が変わらない限り、この技術は「実験で成功」という段階にとどまるしかないのです。
厳格な規定が存在するだけに、今後代理技術に関する議論がどのような方向に流れるかはもう少し見守らなければならないようです。